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Poor Crown〜Beside the Bridge〜
【自伝 その他小説】

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Poor Crown〜Beside the Bridge〜-5

6/4(水)
少しずつ、小雨がぱらついていた。いつの間にか忍びよっていた梅雨前線の気配を頭上に感じながら、僕は今日も土佐堀川を眺めていた。
内定が出てからは初めて訪れたこの場所には、いつもより人気が少なかった。当然と言えば当然だが。
いつものように煙草をふかしながら、右耳に残る受話器越しの言葉を反芻してみる。
「是非、入社して頂きたいと思います」
是非、というフレーズに少々引っかかりを覚えた俺は、間抜けた返事しか返せないでいた。どこをどうして是非なのか、今ひとつピンとこなかったのだ。
今日も面接。自分の価値を企業に計らせる、人間味に欠けた作業。彼らの基準はどこに設けてあるのだろうかと、いつもと同じような疑問を抱く。日本一の車メーカーも、世界を股にかける鉄鋼商社も、古都に唯一の店舗を持つ事務器販売会社も、欲する人材は同じはずなのに。コミュニケーション能力があり、チャレンジ精神旺盛で、広い視野を持てる人材。

何だそりゃ。

つまりは、自分より優れた人間がいるかどうか。いなければ内定。いれば、今後の飛躍と懸賞を祈られるだけだ。
取ってつけたような人材像を無視し続け、好き放題喋り続けた俺は、結局、負け組エリアに片足を突っ込むことになった。
まぁ、流石に、「最近心に残ったニュースは?」と聞かれて、『桑田真澄の引退』と胸を張って答えたのはまずかったとは思うが。
やれやれ。
ため息は紫煙と混ざり、湿度の高い大気に霧散した。
とにかく、内定承諾書にサインするのはまだ後になりそうだ。


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