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僕とお姉様
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僕とお姉様・最終話〜僕と一緒に暮らしませんか〜-3

「父さんは!?」
「だって…」
「こんな、父さん傷付ける様なマネ、俺絶対許さないからね」

ひばりちゃんの顔が一瞬で真顔になった。それだけ僕が今までに見せた事のない表情をしたんだろう。
でも怒るのは当然の話。父さんを裏切るなんてどうかしてる。それも息子の僕を相手に選ぼうなんて。

「強君、あたし…」
「俺が好きなのは、あの人だから」
「…お姉さん?」

立ち上がって、ポケットに携帯と二千円を押し込んでひばりちゃんに背中を向けた。

「探してくる」

一言だけ残して部屋を出た。
この時ひばりちゃんがどんな気持ちでどんな顔で僕を見送っていたのかなんて、全く想像もつかなかった。



出発する前に一縷の望みを込めて携帯の電源を入れた。が、特にメールも着信もなく。

「くそっ…」

まだ体に残るひばりちゃんの温もりを吹き飛ばすように猛スピードでペダルをこいだ。耳の奥で響いて消えない声も風を切る音がごまかしてくれる。
この数時間の間に起きた出来事のせいで、僕の頭の中は父さんの再婚発表以来の混乱状態に陥っていた。
今必死になってるのだって、正直誰の為なのかも分からない。
ひばりちゃんに変な気を起こさせない為?
父さんの幸せを守る為?
それとも、純粋に自分の為…?
分からない。
何が分からないのかすらもだ。
こんな闇雲に探し回っただけで見つかるのか、会ってまず何を言おうか、この先ひばりちゃんとどんな顔して接したらいいのか、考える事だらけで頭の中がめちゃくちゃ。こんな時はどうしようもなくお姉様に会いたくてたまらなくなる。

『山田のバーカ』

人を指差してデリカシーゼロで悩みや迷いを一掃してくれる。
それが僕の救いだった。
このごちゃごちゃもそうやって笑い飛ばしてほしい。それで頭の中が空っぽになってスッキリしたら、トラウマとか自惚れとかくだらない言い訳は全部無視して言いたかった事をちゃんと言うから。
汗だくで息を切らして目的地もなく進む足を、突然鳴り出した携帯の着メロが止めた。
お姉様!?
勝手にそう思い込んで、着信相手の確認もせずに慌てて電話に出た。

「もしもし!?おねえ…」
『あ、強?あたし』

この軽いノリと明るい口調。

「…なんだ、母さんか」

テンションは一気に下がる。

『なんだとは何よ。ねぇ、今どこ?』
「は?」
『強に話したい事があって、もう来ちゃった』
「…どこに」
『家』
「家?」
『そ。今強の部屋にいるんだ。早く帰って来てね!待ってるから』
「は!?俺今―」
『プッ、ツー、ツー…』

…切れた。
このクソ忙しい時に何してんだよ、あの母親は!
僕はお姉様を探したいんだよ!!
僕の部屋にいるなら一人で待たせとけば…
父さんは仕事に出てて、家にはひばりちゃんがいるだけ。そこに母さんが来たのなら、今は二人っきり。

「…」

それはまずい。
まずは母さんを帰そう。でないと落ち着いてお姉様を探せない。
「よし」
そう決まるが早いか、元来た道を全力で戻った。


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