陽だまりの詩 7-6
「…すいません」
病室に戻った途端、奏は息をついて言った。
「なに謝ってんだよ。最初からうまくいくわけないだろ」
「…」
俺はタオルと水を取り出して奏に渡す。
「着替えるだろ？」
「あ、はい」
「じゃあ出てるからな」
「…はい」
俺は振り返り、無心で扉に手をかけた。
「春陽さん！」
「……」
奏が今までに聞いたことがないほど大きな声で俺を呼んだ。
ゆっくりと振り返る。
「あの……」
「ん？」
「いつまで続くかはわからないです」
奏はよくわからない言葉を発する。
「でも、きっと歩いてみせます」
そうか、リハビリのことか。
「だから！リハビリが終わったら…」
しばらく続く沈黙。
だが、奏が確かに発した言葉は。
「私の彼氏になってもらえますか？」
「…」
思考はぐるぐると回転している。
目の前で、えへへ、と笑う小さな少女はなんてことを言ってしまったのか。
「奏」
「はい？」
「反則だぞ…」
「反則？」
「奏のリハビリが終わったら、俺から言おうと思ってたんだよ」
「……えへへ」
俺は力強い声で言った。
「頑張るぞ、奏」
「はいっ！」
俺たちの運命は、やっと動き出した。
そして俺たちは、少し先の幸せな未来をはっきりと見据えていた。