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『ミッション!』
【学園物 官能小説】

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『ミッション! 2』-1

プロローグ

うん……。
先週の土曜、あの大雨の夕方……。駅前の駐輪場でその少年と会ったんだ。
自転車の横に立って、雨に打たれながらジッと俯いてたよ。
私もびしょ濡れで、ブラが透けちゃって最悪な状態だったから……早く帰りたかったんだけど、どうにも気になって声掛けたんだ。
「……そこの少年、どうした?」
って。
そしたら……ビクッて震えて私を見て……、

「……お姉さん……僕の恋人役、やってくれませんか?」

囁くような声で、そう言ったんだ。


part 1

「……その美少年が、今マスコミで騒がれてる“柏木健介”だったと?」
夕方の美術室で、『生きるとは、即ち疲れ切る事だ』――と悟ったような顔の美術教師が、私に鋭い視線を向ける。
「そうだ……」
私がコクリと頷くと、美術教師の隣りで寄り添うように座っていた親友の瑠美が、クスクスと笑った。
「……ユミちゃん、年下の男の子から告白された訳だ」
「いや……この場合、告白とは違うんじゃないか?」

……私の名は、松永夕美。そこに座るポニーテールの少女、藤村瑠美の同級生にして親友である。
華奢な肢体にポニーテールと、同性から見ても可愛い部類に入る瑠美と比べて、長身で凹凸の少ない肢体にショートの髪……我ながら可愛げのない外見をしている。
「……ユミは、芝居で男役を結構演ってるからな。男より女のファンが多そうだ」
「……」
……事実そうだが、ここで肯定するのも悔しい気がする。
瑠美が美術教師の袖を引っ張り、眉根を寄せた。
「……お兄ちゃん、その言い方は失礼だよ……」
「あ……すまん」
素直に頭を下げる先生。……私は苦笑いして、いや構わない、と言った。
「事実、他校の女子からファンレター貰った事あるからね。……それより今の二人の仕種……年月を積み重ねた夫婦のようだったぞ」
笑いを噛み殺す私に、先生は肩を竦めてみせる。
「お前は……竹を割ったようなサッパリした性格をしてるな。……確かに、そこいらのチャラチャラした男じゃ口説き落とせないだろうよ」
「それは外見ゆえか?……性格ゆえか?」
「ノーコメントだ。――しかし、柏木健介ね。この街に住んでるとは聞いていたが……」
「うむ……」
有名な画家だった祖父が亡くなり、その作品群に信じられない値段が付いた。
ここまでならよくある話なのだが……孫である彼をモデルにした生前未発表の作品があり、それに他の作品を上回る高値が付いたのである。
彼をモデルにしてるだけに、現在の絵の持ち主は彼だ。
「――で、恋人役ってのはどういう意味なんだ?」
煙草を捜してるのか、先生は右手でポケットの中を掻き回しながら呟く。
「うん……少年の両親が経営してる会社が、この御時世だからか危ないんだって。お祖父さんの絵を切り売りして、何とか生き延びてる状態……」
「よくある話だな。――で?」
「そこに、ある資産家が資金援助を申し出て来たらしい。お祖父さんの絵のファンとかで、このままだと散逸してしまうから自分が保護したいと……」
「ふむ……」
「ただ、条件が……少年と絵、両方なんだ」
「……どういう意味だ?」
「その資産家の孫娘と彼が婚約する事。つまり、絵を買うんじゃなくて、絵を持った“彼”を買うって事……」
「それって……本人の意思は?」
「……」
私はゆっくりと首を左右に振った。「――勿論そんなの嫌だけど……って。両親が彼に泣いて頼んでるみたい」
「……なるほどな。で、つい言っちゃった、ってところか? 『僕には好きな女の子が居る』と」
「うむ。でも……そんな女の子は居ないし、恋人役演ってくれる知り合いも居ない。……途方にくれて外を彷徨ってたところを、私が声掛けたらしい」
「……」
重い話だ。先生が溜め息を吐き、漸く見付けた煙草を口に咥えた。


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