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捨て猫
【コメディ 恋愛小説】

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捨て猫-6

そして、これも案の定、トシも逃げるように走り出した。
何もかも、高校生になっても彼らは変わらない。
小学校も中学校も、ああしてトシは唯に追いかけられていた気がする。
でも、悪い気はしない。
世の中に変わらない事ってあまりにも少ないから。
「シュウー!」
助けを求めるように、トシが俺の元へと走り込んでくる。
その直後、彼は捕まった。
「唯、違うんだ。これは!シュウの入れ知恵で!」
コイツ、いとも簡単に裏切りやがった。
でも、これもいつもの事、こんなやり取り俺らはもう軽く100回は繰り返してる。
「シュウがそんな入れ知恵するわけないでしょ!」
ほらきた。
いつも通りの猿だって予想できちゃう展開。
でも、唯は知っているのだ。
いつもこうして、けしかけさせてるのが俺だってことを。
そして、俺も唯が気づいてる事を知っている。
いわゆる暗黙の了解ってやつだ。
疑問に思っても、それをぶつけちゃいけない。
俺は弄る役で、トシは弄られる役、そういう役割を知らず知らずのうちに、人間は演
じながら生きている。
その役割は、一度決まれば覆ることは滅多に無い。
ヒーローがいきなり脇役に成り下がることが無いように。
だから、唯が俺を追っかけたりすることも、疑うこともない。
その役はトシのものだから。
「まあトシ、犯罪だけはするなよ」
肩をすくめ、いかにも自分は無関係な風を装う。
この行動に何の意味もない。
でもこれが俺の役なのだ。
「お前がけしかけたんだろ!」
いつも通りの必死なツッコミ。
そんな時、俺は実感する。
俺らはたしかに繋がってる、って。
手に取るよりも明確に、俺らはお互いを理解してる、って。

気恥ずかしく、どうしようもなく傲慢な記憶。
その記憶を思い出すだけで、別の意味で胸が苦しくなる。
罪悪感と恥ずかしさを同時にミキサーにかけたような感覚。
胸の内側へと、体全体がもってかれ、自分自身が小さくなる錯覚。
堪えきれなくなり、鍵のかかった机の引き出しを、開ける。
とっておきのエロ本と、3日で諦めた日記帳、そして……カッターナイフ。
俺はエロ本を読んで夢に浸るつもりも日記帳を見て馬鹿だなぁ、と笑うつもりもな
い。
そう、目的は一つ。
俺はカッターナイフを握りしめ、充分に刃を出した。
くすんだ刃先は刃物としての役割は果てしなく薄い。
それでも堪えられない。
自分が憎くて憎くてたまらない。
自分を傷つけてそれで、事が済むとは思えない。
でも、堪えられない。
この衝動を抑えてられるほど、俺の理性は高くないから。
俺は手首にカッターナイフをあてる。
でも、体温より僅かに冷たいソレは、これが現実だと、はっきりと教えてくれた。
現実感が俺の頭を駆け抜ける。
病院の白い部屋、白いシーツに白いベッド、その隣で静かにうなだれる青白い母の
顔、手首に巻かれた白い白い包帯。
ああ。
まただ。また俺は越えられなかった。
フラッシュバックをしては発作的にこの行動に走り、ゴールに辿り着くことなく戻
る。
いままで何百回もコレを繰り返してきた。
いや、これからもずっと繰り返すに違いない。
おそらく永遠にゴールに辿り着くこともない。


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