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捨て猫
【コメディ 恋愛小説】

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捨て猫-7

「意気地なし……」
自分で自分自身を罵る。
意味はない、でもそうでもしなきゃやりきれない。
「独り言、キモー」
ふともう聞き慣れた声が背後からした。
振り返ると、案の定ユキが眉をひそめ、いかにも不快そうな顔で俺を見ている。
でも、何だかその顔を見てるとホッとした。
俺には現実味がないくらいの世界がちょうどいい。
「あれ?散歩しに行ったんじゃないの?」
「まだちょっとやめとくわ」
ユキは猫耳を付けているくせに、外に出たがらない。
今日だって、こうしてどうにかその気にさせたのだ。
メタボになるぞとか、高血圧とか、あることないこと口にして。
外に出たがらない理由はいまいちわからない。
でも、何かを恐れていることだけは、何となく見てとれる。
それも結構恐れている度合いは強い。
その証拠にふとした拍子に、いつだって外を眺めている。
そこで、俺は初めて馬鹿みたいに初歩的な疑問にぶつかった。
彼女が外に出ない理由よりもずっと知る必要がある事、基本的とでも言うのか、あま
りに大前提過ぎて見落としていた事。
そう、彼女がどこから来て、どうしてあの土管に隠れていたのかという事だ。
でも、直接聞くなんて野暮な事はできない。
きっと、いや絶対に彼女は答えないだろうから。
それから、少しだけ心配そうに耳を折り曲げながら、こちらを見つめるユキを見て、
少なくとも今は、と付け足した。



「ねえ、続きは?」
なるべくどうでもいい事のように、さりげなさを装いながら、ユキは俺に話しかけ
る。
でも、耳だけは忙しなく動いているので、その内心は丸わかりだ。
三部作の映画の二つを続けてDVDで見た彼女は、先が見たくて仕方なくなったのだろ
う。
でも三部作の最後の一つは……
「まだ劇場で上映中」
「劇場……」
そう一言だけ呟くと、彼女は考え込むように顎に手を当てた。
映画のために外に出るか、出ないか、ユキなりに真剣に悩んでいるようだ。
「何をそんな悩む必要があるんだよ、ヒキコモリ」
「……その台詞、あんたにだけは言われたくないわ」
「うっ」
言葉に詰まる。
たしかに、俺は自他共に認めるヒキコモリだし、キャリアだけ見れば俺のが二ヶ月ば
かり長い。
目糞、鼻糞を笑えない状況。なんだかとっても虚しくなった。
「でも、コンビニには三日に一度、外出してるぞ」
「悲しくなるから、そんな馬鹿なことを自慢しないでよ、もう」
それから、ユキは決心したように頷き。
「行くわ」
できるだけつまらなそうに、一言呟いた。

窓を開ける。
新鮮な風が入り、空との距離を縮まったように感じる。
空は雲一つない快晴、風は夏には珍しく涼しげ。
まさに絶好の行楽日和だ。
「見なよ、こんなに晴れてるよ」
「映画に天気は関係ないでしょ」
そう言って、ユキはいつものように不機嫌そうに悪態をつく。
でも、どこか声が上擦っていて、内心とても楽しみにしているのが、よくわかった。
相変わらず素直じゃないな、なんて思いつつ、そんなユキの姿に思わず顔が綻んでし
まう。
そういえば、俺自身もここ三ヶ月直径200m以上先、つまりコンビニより先に外出して
いなかった。


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