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《SOSは僕宛てに》
【少年/少女 恋愛小説】

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《SOSは僕宛てに》-15

 翌朝、配達に出発しようと、バイクの籠に新聞を詰め込んでいる時だった。
「おはよう」
「…ああ…おはよう」
同僚の彼は、寝惚けまなこを気だるそうに擦って言った後、怪訝そうな顔をした。僕が翔子と再会した日の朝、愚痴を溢していた彼奴だ。
「何かあったか?」
「…何かと言うと?」
僕も怪訝に言った。
「いや、あんたが挨拶してくれるとは思わなかったんで」
ふと笑って、彼は述べた。僕も不思議になった。意外な事に、最初に「おはよう」と言ったのは僕の方だった。自然と挨拶をしたのは、最近では翔子にだけだった。
「何か、良いことでもあったの?女?」
気を良くしたのか、彼は興味深そうに言った。下卑た印象はなく、割りと爽やか。今まで注意して彼を見た事はなかったが、何となく、良い奴との印象を受けた。       「当たらずとも遠からず。かな」     僕は苦笑する。翔子と再会した事で、やはり僕は昔の自分を取り戻しつつ在るのかもしれない。彼との会話に、いつもと違って親しみを感じるのもその為だろう。
「遠くはないか…じゃ、意中の人でもできたかよ?」
割りと精悍なルックスに笑みを浮かべ、彼は言った。
「まぁ…そんなとこ」
「見てりゃわかる。誰かに惚れると雰囲気が変わるのは、女だけじゃねぇからな。」
彼は褐色に染めた紙にヘルメットを被せた。
「成程」
「ま、ガンバな。もし振られたらよ、俺に言えよな。良い子、紹介すっから。な?」
確かに色恋沙汰には事欠かなそうな雰囲気だ。
「嬉しいお誘いだが、その必要はないよ」
「お?大胆発言!自信ありっすか?」
「いや、別にそういう訳じゃ…」
「ないのか?ていうか、他の女には興味なし?一途だね」
饒舌振りに呆れながらも、それ程嫌な気分はしなかった。
「だから、別にそういうんじゃない」
「…そういう事でいいけどさ」
彼は口の端を笑みに歪めたまま言った。バイクに跨り、エンジンを起動させる。
「じゃあ、俺先に行くからよ。その内、結果報告してくれよな
そう言い残して走り去る。随分と朝からハイテンションだ。悪い奴ではなさそうだが。
僕も支度を済ませ、朝靄の街へとバイクを走らせた。
「おはようございます。亮さん」
紀崎邸の玄関前、彼女はペコリと頭を下げた。
「おはよう。今度は先に言われたか…」
「え?何の話し?」
翔子が首をかしげる。僕はヘルメットを脱いだ。
「僕が変わりつつ在る。と言う話しさ」
僕の言い回しに彼女は吹き出す。
「何かありました?」
「別に。あっ、その台詩も、本日二度目」
「こんなに朝早くなのに私は二番目?」
「順番に序列なんてない。問題は誰の言葉であるかだよ。言葉の意味は同じでも、それによって価値は異なるからね。まぁ、一番手の彼との遣り取りも、貴重な経験でも在りました」
新聞を渡しながら言った。
「貴重な経験?気になりますね」
「君のお陰で得た経験だよ」
翔子はますます訳が分からなくなったように、眉間に皺を奇せる。僕は笑った。
「ごめん。忘れてくれ」
翔子はまた首をかしげた。
「意味深長。ですね」
「気にするなって。はい、手紙」
「ありがとう…」
まだ気になるのか、翔子は訝しげな顔のまま受け取った。さらに僕はブラックの缶コーヒーを手渡した。
「昨日はご馳走になったからね。おごるよ。お子様には、無糖はきついかな?」
「亮さん…だんだん言うようになってきましたね」
彼女はおかしそうに言ってコーヒーを受け取る。
「言ったろ?僕は変わりつつ在ると」
「良い方向には向いてませんよ?」
翔子がプルタブを抜きながら言う。
「君も、なかなか言うようになったね」
僕は少しだけ撫然とした。
「亮さんの影響ですよ?」
翔子は心外そうに僕の瞳を覗き込む。
「…ほう。僕を客観的に見ればそうなるのか。反省すべき点が多々在るな」
負けじと揶揄を飛ばした。
「ええ。忠実に再現してますからね。教訓にして下さい」
応戦するように翔子も毒を吐く。いつもの下らないじゃれ合いに、二人は笑みを交わした。


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