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《SOSは僕宛てに》
【少年/少女 恋愛小説】

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《SOSは僕宛てに》-14

『拝啓 村瀬亮様 お元気ですか。と言っても、さっき別れたばかりですけどね。実を言うと、あなた宛てに手紙を書くのはこれが二度目です。一度目は中学生のころです。書いたはいいけど、結局渡せませんでしたけどね。今でも持ってます。その手紙。ラブレターじゃないですよ?…出鼻から何を書いてるんですかね。私。消そうにもボールペンなので消せません。では、あらためまして、お手紙ありがとうございます。手紙というのも、やっぱり気恥ずかしいものですね。亮さんの言うとおり、手紙ってなんだか不思議です。言われてみれば、ですけどね。亮さんの時を使った例え、面白いですね。さしづめ、時のリレー。いや、バトンタッチ?…ふむ…?私には比喩は無理のようです。
 さて、話しは代わりまして、『光の末』を読んでもらえたのですね。私としては、単純に感情移入できた。という一点で、亮さんに読んでもらいたかったのです。何を書いてるのかよくわかりませんね。でも、いいです。読んでもらえたら、それで万事OKです。あのころの私たちに戻る第一歩としてね。それと、『光の末』は、亮さんが持っていてもらえますか?私はもう何度も読んだので、嫌でなければ、ぜひ。別に私の怨念なんかこもってませんから。ご安心めされ。さて、そろそろ字数も限界に近付いてきましたので、今日は筆を置かせてもらいます。
 PS:亮さんは、私に喪失を感じたと、書かれていましたね。言葉にするのは難しいので、理由はよくわかりませんが、そういったものを誰かに伝えるのはとても勇気のいることなんです。今はまだ、私にはその勇気がありません。けど、いつかその内、亮さんになら話す時がくるのかもしれません。約束は、できませんけどね。では。
 二回、その手紙を読んだ。一回目で、『光の末』が彼女からの間接的なメッセージで在る事に対する疑念が、完全に消えた。そして二回目。そのメッセージの意図に対して、新たな疑問符が産まれる。僕は彼女からのメッセージを、SOSとして捕らえたが、その形容は正しかったのだろうか。手紙を読んだだけでは、彼女から助け舟を求める意思は感じられなかった。いや、傷口を強がりで覆い隠しているだけかもしれない。傷に触れれば、痛みが生じる。痛みを感じないのは、自らの心に麻酔をかけた悲しき性(さが)の人だけ。きっと翔子はそうではない。痛みは怖い。僕だってそうだ。所々、文上の印象からして彼女が傷を含有している事は、確信しても良いと思う。問題は、翔子自身がそれを癒される事を望んでいるのか、否かだ。淡い黄色の手紙、その上の綺麗な字を見つめ、考える。やはり、翔子は傷口を成すがままにし、風雨にさらして置くのを良しとする少女ではない。そうでなければ、何の為のメッセージだ。例えそれを望んでいなかったとしても、僕自身、彼女の傷を放って置く事などできはしない。
 僕は鞄から、大学の帰りに買っておいた白い便箋を取り出した。ルーズリーフを一枚抜き出し、返事を書いた。
『まずは、お返事を有り難う。対面してではなく、手紙という手段で君の内面に触れようとするのは姑息な方法かもしれない。けど、手紙には苦衷を吐露し易い面も在ると思う。万物には良き側面と悪しき側面が在る。と、僕は思うのだが、今は良い面だけを見た上で、この手紙を書いています。(前置きが長引いてしまったね。澱みなく文章を書ける事の悪い側面だ)さて、昨日僕が書いた手紙の内容を思い出すと、僕自身の近況を綴る必要が在るようだ。では、その概要を書き記そう。今僕は、知っての通り大学生。専攻は国文。新聞配達は、バイトではなくて奨学金援助の為の一業務。忙しいけど、不満はない。そのお陰で君と再会できた訳だしね。僕は寮に暮しているんだけど、これが結構くせ者なんだ。門限は在るし、平日の食事は独りで摂れないし、サボタージュもできないしね。寮代はないから、金銭面には不満はない。多忙な上に貧しかったら割りに合わないし。
 寮の周囲は閑静で、夜闇を凌辱する人工灯もない。その恩恵で、夜に屋上に昇れば、結構な星明かりを目にできる。遠く視界の果てに広がる街の灯を眺めていると、不思議と、其所に生きる人々が哀われに思えてくる。ま、些細なエゴだけどね。とにかく、僕はその寮と百軒以上の人家と、大学を行き来するだけの日々を送っているよ。無意義。とは感じないけど、幾分退屈では在る。それは君に逢って変わったけどね。本当だよ。随分と一日一日に輝きが増してきた。本質を見れば、それはとても凡庸な事だと思う。けど僕に取っては何よりの滋養。君もそう感じてくれていたら、これ程幸な事はない。
 PS:今度は君が近況を語ってくれたら嬉しいが、それが君の言う、勇気の要る事だとすれば、今それを求めるような事はしない。焦る必要はないよ。僕等を隔てた時間は決して短いものじゃないからね。ゆっくりと、創り上げて行こう』


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