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和州道中記
【その他 官能小説】

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和州記 -或ル夏ノ騒動--12

「あの小便垂れの小僧が、な。驚いたよ。おまけに、女ってのはどんなものかと見てみれば、こんな美人たぁな」
鳩羽がにやりと口元を吊り上げると、竜胆が思わず顔を赤くした。
「なあ、お嬢さん。あいつを――一紺をよろしく頼むわ」
鳩羽のにやけた面が不意に真剣なものになった。
彼は竜胆の肩を大きな手のひらで叩く。
「突っ走っちまうところもあるが、根はいい奴だ。今回はちょいと早とちりだったみたいだが、子どもなんかまたすぐに出来るだろうさ」
鳩羽の言葉に、竜胆は頷いた。
「でもな、その時が来ても、心配はするな。あいつはやる時はやる奴だ。お前さんが心配することは何ひとつだってねえからよ」
「それは、私が一番良く分かっています」
でも、と竜胆は小さく首を横に振る。
「心配ごとだって、やっぱり二人で分け合いたい。あいつには何もかも与えてもらってばかりですし…」
その顔に微笑を刻み、竜胆は力強い瞳でもって言った。
「辛いことも楽しいことも、二人で越えて行きたいんです」
「…それ聞いて安心したぜ。お前さんは、一紺なんかにゃあ勿体ねえくらい、いい女だな」
再び豪快に笑う鳩羽に、つられて竜胆も笑みを浮かべた。
(こんな良い兄貴分がいて、幸せだな)
鳩羽の笑いを聞きながら、竜胆は少しばかり一紺が羨ましく思えた。


鳩羽が宿から出ると、一紺はぼんやりと宿の相向かいにある茶屋の入り口に、腰を下ろしていた。
そして彼は鳩羽の姿を見とめると、慌てて鳩羽の元へ走ってくる。
口を開くなり竜胆の様子を訊ねる一紺に苦笑を浮かべ、鳩羽は答えた。
「彼女は心配ねえ。顔色こそすぐれねえが、思ったよりも元気だ」
ほっと、安堵に胸を撫で下ろす一紺。
鳩羽はそんな彼の肩に大きな手を乗せながら言った。
「ところでよ、一紺。たまには寄ってやれよ。此処からそう遠くはない村なんだからな。女が出来た、と報告もしなきゃだろ?」
蘇芳のことか、と一紺が呟き鳩羽の褐色の瞳を見つめた。
優しげな彼の瞳に一紺は軽く頷いてから、突然頭を深く下げた。
「おおきに、兄貴…いや、先生」
そして、頭を下げたままで言う。
「あのな…もし、竜胆がほんまに…」
「これから先、そう言うこともあるかもしれねえ。その時、お前がどう動くかはお前次第だ。ま、いい勉強になったろ」
豪快に笑う鳩羽は、一紺の頭を掴んで顔を上げさせた。
「気にすんな。こんなやぶ医者に礼なんかいらねえよ」
そう言って踵を返す鳩羽。
振り返らぬまま、大男は手を振りながらその場を去った。
一紺はその背が見えなくなってから、竜胆の待つ宿へと急いだ。


「…ごめん、早とちりして」
宿に戻った一紺を傍らに、暫し沈黙した後、躊躇いがちに竜胆がそう口を開いた。
「…別に、ええよ」
「怒ってないのか?」
竜胆から顔を逸らし、少しぶっきらぼうに一紺は言う。
「怒るわけないやろ。お前が無事で、ほんま良かったわ」
しかし、その言葉とは反対に相変わらず彼の視線は竜胆とは別の所にある。
彼女はむっとして一紺の肩に手をかけた。
「怒ってないなら、こっち向いたら…ッ!?」
その瞬間、竜胆の身体が床に押し付けられる。
その上に圧し掛かり、一紺は乾いた竜胆の唇に己のそれを押し付けた。
「ん…ッ」
「……」
唇を離すと、一紺は首を横に振って竜胆の身体から離れた。


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