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ナツユメ
【少年/少女 恋愛小説】

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ナツユメ-7

――ナツのデジャヴ――

 今日は浜辺で小夏と待ち合わせる約束をしていた。
約束の五時まで二時間半もあるが、俺は浜辺まで足を運んでいた。
昨日の夕焼けの中の海も美しかったが、
青い空の下広がる碧い海・・・というのも綺麗だ。
今日も相変わらず暑い。
俺は途中で見かけた自動販売機まで戻り始めた。
すると、前方に小夏の姿が見えた。
海ではなく、別の方角に足を運んでいる。やがて道を曲がり、彼女は見えなくなった。
俺は水分補給の予定を変更し、彼女が曲がった方へ歩き出した。
そこは殆ど山道だった。
木や草が生い茂り、日の光も届かない。足場も悪かった。
本当にこんなところに小夏が入ったのだろうか・・・。
山道は下り坂になり、やがて道路が見えてきた。
ここ何日も砂利道ばかり歩いていた俺には新鮮な光景だった。
小夏は急カーブの辺りに立っていた。
「小夏。」
俺が声をかけると、小夏はこちらを向いた。
ひどく驚いた様子だった。
「何してるんだ?」
「桐一君・・・なんでここにいるの・・・。」
小夏は質問には答えず、呟く様に俺に問いかける。
「お前の姿が見えたから追ってきたんだろ。」
「・・・そうなんだ。」
――沈黙。
「あと一分位・・・。」
小夏は目線を先程の山道に向けた。すると、山道から黒猫が一匹、道路に出てきた。
「もうすぐ・・・死んでしまうから。助けないといけないの。」
遠くからかすかに聞こえるバイクの走行音。
その音が近づいて来ると判った瞬間、
俺は小夏を道路の端に突き飛ばし、道の真ん中に座こんだ黒猫の首根っこをつかんで抱え込み、
そのまま自分も道路脇のガードレールの下にころがりこんだ。
二、三秒後、バイクは猛スピードで俺の横を通過していった。
俺が小夏の言葉を理解したのは、バイクの音が聞こえなくなった後だった。
頭の奥で何かがはじける音がする。
俺は知っていた。
俺が小夏を追って来なかったらどうなっていたか知っていた。
「大丈夫?桐一君っ!」
俺と黒猫にかけ寄る小夏。
「小夏・・・お前は・・・。」
「・・・・・・。」
猫は小夏の足元にすり寄っていった。
「まだ・・・思い出しちゃだめだよ。」
「・・・え・・・?」
「今が壊れてしまうから。」
・・・それはいつか、俺の頭に響いた声だった。
けれどもう、遅かったのかもしれない。
忘れられた記憶は、刻まれた時よりも鮮明にその姿を現しはじめていた。
小夏は黒猫を抱きかかえた。
猫はその瞬間、彼女の腕の中で動かなくなった。
「やっぱり過去は変えられないから・・・。」
それは、今まで俺が見てきた中で一番悲しそうな表情だった。
――短い夏が終わる・・・。


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