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ナツユメ
【少年/少女 恋愛小説】

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ナツユメ-6

――ナツウミ――

今日も俺は、いつもの木陰で昼寝をしていた。
目を開けると、太陽が葉陰からチラチラと覗く。
眩しいけれど心地良い。
俺は再び目を閉じる。
「桐一君?」
小夏がやってきた。
寝たフリをする。
「寝ちゃってるのかなー?」
あちこちつつかれる。
くすぐったいのを我慢した。
そのうち攻撃は止まる。
やっと行ったか、と思い目を開こうとすると、口になにか入ってきた。
驚いて起き上がると、その物体が喉につまる。
むせる。
「あ、起きた!」
小夏は死の淵から生還した俺を、笑顔で迎える。
一瞬悪魔に見えた。
喉につまったのはアメだった。
「死ぬだろ!」
「ご、ごめん。」
小夏は申し訳なさそうにうつむく。少し、怒鳴り過ぎただろうか。しばらく二人はそのままでいた。
気まずい・・・。
俺は小夏の前に手を差し出す。
「アメ、まだあるか?」
小夏は少しの間、驚いた様に俺の顔を見つめ、俺がもう怒っていない事が分かると、少し笑った。
「うん、いっぱいあるよ!何味がいい?」
「何でもいい。」
受け取ったアメをなめながら、しばらくの間風に揺れる木の枝を眺めていた。
口に中に甘酸っぱいレモンの味が広がる。
「桐一君、海行こうよ!」
「今からか?」
「うん!」
ここに来る時乗った鈍行列車の窓から海は見えた。
ここからならたぶん歩いて行ける距離だろう。
「今から行くと夕方だぞ?着くの。」
「いいんだよ、夕方の方が。」
・・・まあ、かくれんぼやセミとりの様に振り回される心配は無いだろう。海くらいなら付き合ってやってもいい。
「そうか、じゃあ行くか。」
「うん!」
・・・二十分ばかり歩いただろうか。
踏み進む砂利道も、大半が砂になってきた。
潮の香りがする。波の音が聞こえてきた。
海が近い。
「見て見て桐一君!」
海が見えた。
斜陽は海原を橙色に染め、その姿を今まさに隠そうとしている。
美しかった。
「キレイでしょ?」
小夏は夕焼けを見ながらそう言った。
「この町で一番私が好きな場所なの。ここで見る夕日が一番キレイ。」
しばらくそうして海を眺めていた。
俺は沈みかけた西日を見つめる。
同じ光景を、いつかどこかで見たような気がした。
八年前・・・だろうか。このまま海を見つめていれば、全て思い出せるような気がする。
けれど、それを心のどこかで拒絶している自分がいる。
閉ざされた記憶を解けば、
今この瞬間が壊れてしまう。
思い出してはいけない。
そんな声が頭の中に響く。
俺は目の前の光景から目を背けた。
「今日はね。」
小夏が俺の方に向き直る。
「ただ桐一君とこの夕日が見たかったの。」
「・・・そっか。」
「うん。」
俺達は、海の向こうの太陽が見えなくなるまでそうしていた。
 浜辺を歩きながら、小夏は波と遊んでいた。
俺は彼女の後に続きながら、空に輝き始めた星を眺めた。
「・・・明日はね、お祭りがあるの。」
「ここでか?」
「ううん。となり町。」
「そうか。」
「でもね、この辺りからなら、花火が見られ
るの。」
・・・花火。昨年は勉強に追われて見る事が出来なかった、夏の風物詩。
「八年前に二人で一緒に見よう、って約束したの。だけどね、見られなかった。」
「・・・なんでだ?」
「・・・・・・。」
小夏は悲しそうに笑う。どうやら思い出したくない過去らしい。俺は話題を変える。
「行こっか、今年。」 
「えっ・・・。」
「八年前見られなかったなら、今年見ればいいだろ。」
「一緒に行ってくれるの?」
「ああ。花火久し振りだしな。」
「ありがとう!」
そう言って笑った彼女の顔は辺りが暗くてよく見えなかったけれど、
俺は嬉しい気持ちでいっぱいだった。
星はさっきよりも輝いて見えた。


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