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ナツユメ
【少年/少女 恋愛小説】

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ナツユメ-8

――ナツのヤクソク――

花火を見ていた。
美しく夜空を彩る夏の花。
それを見ながら俺達は色々な事を話した。
再会した日の事、かくれんぼの途中で買ったアメ玉の事、セミとりの事、海の事・・・。
それはこの数日間をただただ遡るだけの話だったけれど。
そうするしかなかった。
それだけしかなかった。
俺達の間にははじめから、
過去しか存在しなかったのだから。
「八年前、花火の約束をした時も、海で待ち合わせをしたの。」
小夏は八年前の夏の事を話しはじめた。
「かくれんぼもセミとりも、その時桐一君と一緒にやったんだよ。」
俺はただ黙って彼女の傍に立っていた。
「そして八年前の今日が私と桐一君が一緒に過ごした最期の夏休み。」
「幻でも、約束が果たせて嬉しかったよ。」
小夏はアメの入った袋を俺に差出し微笑む。
「だからもう夢は終わり。」
袋の中にはアメが二つ残っていた。
「私がこの空の下にいられた時間はたった七年間だけだったけど、それは絶対に悲しい事じゃなかったんだよ。・・・桐一君。」
夜空に最期の花が咲いた時、小夏はもうそこにはいなかった。
  
 目が覚めるとそこは、小さな川の流れる静かな土手だった。
 夢を見ていた。
とても大切な夢を。
――小夏。今、生きていれば中学三年生だった。
八年前の約束の日、俺は海辺で少女を待っていた。
共に花火を見ようと約束した少女を。
けれど少女は・・・小夏は来なかった。
俺は一人で橙に染まる海を眺めた。
その日、バイクにはねられそうになった猫を助けようとして、死んでしまった彼女の事を、
俺はしばらく経って母親から聞かされた。
「死ぬ」という言葉はあまりピンと来なかったけれど、もう二度と彼女に会えない事だけは分かった。
悲しかった。
泣き続けた。
田舎には、そんな思い出しか残らなかった。
――そして俺は小夏のことを忘れてしまった。
それが俺が田舎を嫌がり続けた理由。
小夏が終わらない夢の中で一人きりでいた理由。
今なら全てがわかる。
 夢から数日が経った。俺は夢の中で最期に小夏と一緒に居た場所に立っていた。
アメを頬張り、色々な事を考える。
それは懺悔であり、願いであり、届くはずのない手紙だった。
 八年前、自分の悲しみ故に君を消そうとした俺。
なぜ一度でも君の気持ちを考えなかったのだろう。
忘れられてしまうのは、死ぬより辛い事なのに――。
もう二度と言葉を交わす事は無いけれど。
もう二度と共に砂利道を歩く事は無いけれど。
君は許してくれるだろうか。
君のあの最期の言葉を聞くまで、君が不幸だったと思い込んでいた俺を、
許してくれるだろうか。
君は幸せだった。
少なくともあの夏の数日間の幸せだけは夢ではなかった――。
と、今ごろになって気付いた俺を、許してくれるだろうか。
ここに誓うから。
「もう、忘れない。」
――もう悲しくはないから。
君が幸せだったのなら悲しくはないから。
 『ありがとう・・・』 
その時頭に響いた声は、とても懐かしかったけれど、
記憶に刻みつける前に、花火の音に消されてしまった。
 真夏の夜空に咲く色とりどりの花――。
切なくて、美しい、夏のユメ。
そしてまた、
 夏ははじまる――。


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