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十の夜と夢の路
【悲恋 恋愛小説】

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十の夜と夢の路-17

しばらくして、俺は空音を放した。本当はもう少しあの温もりと柔らかさを感じていたかったのだが、仕方ない。
「解っただろう?互いに罪を主張して謝りあうなんて、つまらないことなんだ」
「でも……」
「むしろその記憶を思い出して、俺が謝らなきゃいけなくなるだろ?」
「どうして!?わたしは十夜くんを殺そうとしたんだよっ!?」
彼女は頑なに自分の罪を認めさせようとしている。だが、
「殺されるような理由をつくったのは俺じゃないか」
「それはっ…………」
空音は言葉を詰まらせる。
空音の変化に気付けなかった俺の責任も大きいのだ。それを俺は、彼女の言葉から気付かされたのだ。
「だから、あっけないかもしれないけどこの話はこれで終わらせよう」
「十夜くんは、許してくれるの?」
「許すとか許さないとかじゃないんだ。お互いさまなんだよ」
諭すように俺は応えた。この対応が正しいものとは思わない。けれど、俺には今それしか言えなかった。他にベターな言葉が思い付かなかったし、あれやこれやと飾るより素直に言うことがベストだと知っているからだ。そう、すべては彼女から教わった。

「帰ろう。今日のために特別な手料理を用意したんだ」
「その前にひとつ、最後に訊いていいかな?」
「何だ?」
「十夜くん本当に、わたしが十夜くんを殺そうとしてた記憶を思い出せなかったの?」
空音は、そんな質問をしてきた。
本当のことを言うと、空音という名前を思い出したのと同時にその記憶も思い出していた。けれど、それをもし空音が思い出してなくて俺がさきに言ってしまったら相手を混乱させるのは目に見えていた。だからあえて言わなかったし、さも知らなかったように演じた。咄嗟に何も言えなかったのは、彼女がそれを思い出していたことに少し驚いたからだ。
「気付いてたよ」
「やっぱり……ずるいよ」
「ずるいのはお互いさまだろう?」
俺は返した。夕映えする河原のまんなかで、何故だかおかしくなり二人で意味もなく笑っていた。何気に思ったのだが、俺は3年振りに笑う気がする。それも、こんなに気持ちの良い笑いは生まれて初めてかもしれない。
もう見えなくなった夕陽の残された光を背に受け、二人で並んで帰路についた。
ふと見た空音の横顔は、以前よりすこし輝いてみえた。
「あっ…………」
「どうした?」
十夜くんに言わなければならないことがあったのを思い出し、わたしは立ち止まった。
「わたし、十夜くんにね、嘘言ってた……」
「嘘?」
彼は目を丸くして訊ねる。わたしは言った。
「朝霧空音は偽りの名前……小枕夢路が本名なの」


数年前、あるところに空想が好きな女の子がいました。彼女は自分の興味が向くとそれらを頭の内側で想像したりして遊ぶのが好きで、いつも独自の世界を築いていました。
ある日、彼女は興味本位から、自分の描いた物語を編集社の新人コンテストに送ってみることにしました。そうしたら見事に当選、一冊の本を出版するに至りました。そこで彼女は思ったのです。『たとえ“空”想から生まれた世界でも、それを理解し評価する者があるならその物語は美しい“音”色を奏でられるのだ』と。その想いの一節から、彼女は自らを『空音』と名乗り、己の空想を誇示できる女の子へと生まれ変わったのです。


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