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「S女とM男の恋愛事情」
【大人 恋愛小説】

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「S女とM男の台所事情」-1

今日は残業もなく早めに帰宅させてもらった俺…村田充彦22歳、メゾン・ド・Mの住人だ。
今朝、勇気を出して告白、なんとOKを貰った彼女はメゾン・ド・Sに住む園田さゆりサン。
俺たちはまだ、お互いを何も知らない。
…とはいえ、知ってはいけないような気もするが。
さて、早めに帰宅した俺は、今朝彼女に貰った電話番号が書いてあるメモをテーブルに置き、それを前に正座したまま静止していた。
電話って、意外に勇気がいるもんなんだな。
とりあえず、電話してみようと勇気を振り絞り、携帯電話でメモに書かれた番号をコールする。
1コール…2コール…3コール…
「…はい」
か、彼女の声だ!3(サド)コールで出るとは…あ、あなどれん!
「あ、あのっ……俺、むむむ村田ですっ…」
途端、電話口の彼女が大爆笑。
…何事?
「お前、お前の番号…っ!あーっはっは!ディスプレイ見たら9434…串刺しじゃねぇかー!さすがドMだ、あなどれねぇ!」
…おや、お互いあなどりがたかったようで。…って、だから俺ドMじゃないのに…あなどってもらっていいんですけど…。
「あー、ウケた!ところでお前、晩飯食ったか?」
「え?いや、まだです…。昨日作ったおでんが残ってるんで、それ食べようと思いまして…」
幸いなことに料理だけは得意な俺。おでんはダシも俺特製なのだ。カレーだとか煮物だとか、独り身なので量を多めに作って何日かに分けて食べることが常だった。
てゆーか…、あれ?俺、何で敬語?
「何?お前料理できんの?でかした充彦。それ持ってアタシんとこに来い。褒美はアタシの部屋に上がる権利だ、余るくらいだろ?」
サラリと言い放ち電話を切る彼女。有無も言わさぬ俺様っぷり。いやいや、そんなことより、褒美って…。俺、調教でもされてんのかな…。
「はいはい、身に余るお誘いどうもですよー」
独り言にブツブツと文句を…しかも敬語で言いながら、それでも俺はおでんが入った鍋を持ちイソイソと部屋を後にする。
隣に向かい、201号へ。インターホンを鳴らし彼女を待つ。
「はい」
「村田です」
「ちょっと待ってろ」
少しして、彼女がドアを開いて顔を出す。
帰宅したままの姿らしく、黒系の上品なフェミニンな恰好をしている。一見した限りでは、美人でおしとやかそうなお嬢様タイプ。…なのだが。
「よし、持ってきたな。上がれよ、一緒に食おうぜ」
…これだ。俺ですらこんなに乱暴な言葉遣いしないって。
とりあえず、俺は彼女の部屋に上がらせてもらうことになった。有り難き幸せ。
…おっと、何だか調教され気味なような。
俺は玄関で靴を脱ぎ、乱雑に脱ぎ捨てられている彼女の靴の邪魔にならないよう、隅のほうにチキンと自分の靴を揃えてから部屋へ上がる。
…靴まで低姿勢?
いやいや、違うから。
鍋を彼女に渡そうとすると、彼女がそれは美しい微笑を浮かべキッチンを指差した。
「じゃ、火にかけて温めたら、リビングに持ってこいよ?とりあえず食器棚見て、適当に使えるの使っていいから」
自分の住む部屋との違いに感心しつつ豪勢な部屋を見渡していると、当然の如く彼女が言い放つ。
人の台所…勝手にイジるのってどうなんだろう。
半ば諦めながら溜息混じりにキッチンへ向かう俺。そんな俺の背後から、S光線がチリチリと突き刺さる気配を感じ、ハッとして俺は後ろを振り返る。そこには、鋭い視線で俺を睨み据える彼女がいた。俺は思わず内心で小さな悲鳴を上げる。


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