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明日になれば…
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明日になれば…-15

「松岡興業です」

「松岡直哉さんに取り継ぎ願います」

「どちらさんで?」

「申し遅れました。橘忠男と申します」

〈お待ち下さい〉との声の後、待ち受けメロディが流れる。それは、男の声とは対象的に穏やかなメロディだった。
男が呼び出しに行って数分経っただろうか。突然、メロディが途絶えて張りの有る声が、橘の耳に飛び込んで来た。

「センセイ!ご無沙汰してます!どうしてたんです?半年も」

「親分もお元気そうで何よりです」

「よして下さいよ水くさい。センセイには返し切れねえ位のご恩が有るんですぜ」

男は橘に恐縮しきりだ。彼の名前は松岡直哉。年齢50歳。

ヤ〇ザの中で、数少ない昔ながらの任侠を貫く松岡組の組長である。〈素人様には一切迷惑を掛けない〉が先代からの教えで、彼は忠実にその教えを守ってきた。
そのお陰か、彼の組が在る界隈では彼等を悪く言う者は皆無だった。

松岡と橘の知り合ったのは、松岡の娘が橘の活動で救われたのがきっかけだった。最初、橘は松岡をヤ〇ザと聞いて躊躇したが、彼の在り方を知って今では懇意にしてもらっている仲だった。

「組長、頼みが有るんだ。アナタにこんな事言えた義理じゃないんだが…」

松岡は先程までの張りの有る声から低く、しかし、通りの良い声で、

「なんなりと…」

橘は春菜の件を全て松岡に伝えた。松岡は橘の話を一切口を挟まずに聞いていた。そして、橘の話が終わるとため息をひとつ吐いた。

「最近は、まったくの素人娘がそんな世界に入っちまって…親の顔が見てえもんだ…」

「組長、それよりも…」

「分かってます。とりあえずウチと提携している組に問い合わせてみますよ。だが、はっきり言って何の約束も出来ませんぜ」

「ありがとう親分。私も捜すから、何か分かったら連絡してくれないか?」

〈分かりました〉と言う松岡の声を聞いて、橘は受話器を元に戻した。
橘は思った。出来れば松岡に頼みたくはなかったが、事態が事態だけに仕方のない選択だった。


彼は春菜の無事を祈った。





橘が松岡に春菜の消息を捜してくれるよう頼んで2週間が過ぎた。彼自身、昼間の活動を仲間に頼むと、春菜に聞いた条件に当てはまるような場所を探し、不審車両や人物の目撃談。
または、不審人物が出入りする建物の有無など探索する毎日だった。

しかし、橘も松岡からも何の情報も得られなかった。

橘は思った。電話での春菜の様子では、病気になっても医者にも診せて貰えず放置されているに違いない。

(このままでは、彼女の身体は益々衰弱して最悪……)

橘は言いようの無い焦燥感に襲われていた。


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