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明日になれば…
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明日になれば…-1

〈ルルルルルルルルルッ!!〉

けたたましく電話のコール音が響く。ベッドの中で橘は、音から逃れようと寝返りを打つ。が、ハッと目を覚ますと慌てて飛び起きる。
そして、むしるように受話器を取ると、ひとつ咳払いをして電話に向かった。

「ハイ、橘ですが?」

橘は思った。〈今夜も眠れそうにないな〉と。聞こえてきたのは、か細い女の子の声だった。

「…センセイですよね…〈命のダイヤル〉の……」

橘は先程までの寝ぼけ声ではなく、張りのある声で答える。

「そう、〈命のダイヤル〉代表の橘だ。君の名前は?」

彼女は橘の問いかけには答えず、

「…私…死ぬ…もう疲れた…」

橘の直感がアラームを鳴らす。何とか話を続けようと考える。

「オイオイ、名前も名のらず一方的に〈死にます〉は無いだろう。せめて下の名だけでも教えてくれよ」

受話器の向こうにいる女の子は、問いかけに黙っている。

長い静寂。橘にとって、じりじりとした時間が過ぎてゆく中、女の子はようやく重い口を開いた。

「……沙織……」

橘は〈これで何とかなる〉と思った。

「よし、沙織。どうしんだ?オレに電話してきたんだ。オレには知る権利が有ると思うが?」

その後、また長い沈黙。橘は再び沙織に伝える。

「沙織。頼むよ。オマエを死なせたく無いんだ。救いたいんだ…」

すると、沙織はようやく答えた。

「…私ね…誰も信じられない。皆んな、友達も…両親も…私を避けていくの……もういやだ」

受話器越しに、沙織の嗚咽が聞こえる。橘は、これ以上この話で引っ張るのはヤバイと思った。感情まかせに衝動自殺しかねない。

「そう言うなよ。話、変わるけど沙織は今幾つ?」

また長い沈黙。だが、電話は切らない。橘は良い方向に進んでいると思った。
沙織は消えそうな声で答える。

「……15…」

「15歳。一番多感な時期だね。ところで沙織。家に来ないか?イヤなら逃げりゃ良いんだよ。君に居場所が無いなら私が匿ってやるよ」

沙織の無言が過ぎていく。橘は〈落とし所〉を考える。しかし、現実は残酷だった。受話器の向こうから嗚咽が漏れる。

「……せ、先生…ありが…とう…もっと早く…会いたかったよ…」

その直後、電話は切れた。〈ツーッ、ツーッ〉と、受話器からの音が橘の耳に響く。
彼は受話器をゆっくりと戻すと、絞り出すように言った。


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