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明日になれば…
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明日になれば…-14

「…センセイ…」

橘は我を忘れて声を張り挙げる。

「…春菜!!春菜なのか?」

「………」

「春菜!オイ!春菜」

か細い、かすれる声で春菜は答えた。

「助けて…」

「そこは何処なんだ?」

「分からない…」

橘は焦る気持ちを抑えると、静かな口調で訊いた。

「そこから何が見える?」

しばらくの沈黙。そして春菜は答える。

「たくさんのビル…」

受話器の向こうから、激しく咳込む音が聴こえてくる。病気の上、かなり衰弱しているようだ。
橘は〈直ぐにでも救いたい〉という衝動に駆られるが、いかんせん〈たくさんのビル〉では場所の特定しようが無かった。

「何か目立つモノはないか?タワーとかネオンとか広告とか」

またしばらくの沈黙。春菜の声を待つ間が、橘には数時間にも感じられる。

「…橋が…」

「橋が見えるのか。大きさは?」

「大きい…クルマが帯状になって…流れて…」

どうやらデカイ橋か高速道路のようだ。橘は春菜になおも見えるモノを尋ねるが、後は金融機関の広告やコンビニの看板というありふれたモノだった。

(これで場所の絞り込みは何とかなりそうだ。明日からしらみ潰しに探そう……)

橘は春菜に〈必ず見つけ出して助けてやるから安心しろ〉と声を掛けた。
すると、春菜は泣きじゃくりながら、橘の元から逃げた後の事を語り始めた。

「…あの日、ゲーセンに居たら男に声かけられて……」

「もういいよ春菜。それ以上喋るな」

橘の声に答えず、春菜は語り続ける。


「クルマに乗せられてホテルに行ったの……そしたらクスリ射たれて…今じゃ…毎日射たれて客取らされて……私…このままじゃ殺される…」

そこまで言うと、春菜は再び激しく咳込んだ。

「分かった、もう喋るな。余分な体力を消耗するぞ。必ず助けてやるから、それまで頑張るんだ」

春菜の嗚咽が聴こえる受話器を橘は元に戻すと、頭を抱えて苦悩の表情で考え込んでいた。
しばらくそのままの姿勢で固まる。だが、突然、身体を起こすと、再び受話器を取りダイヤルを押した。
数回のコールの後に接続音が聞こえた。受話器から、低く潜った男の声が聞こえる。


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