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雨音
【悲恋 恋愛小説】

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雨音-2

「そだ、中野のおばちゃん、またバーベキューやりたいってよ」
話題はあたしのお母さんになる。
「ふーん」ハイチュウを食べながらの返事。
「今度はどっちの庭かねぇ〜俺んちかな」
隣同士、というのは、良くも悪くも『使える』。
その上、俗に言う幼馴染だったりもする。
きっとあたしは、今までの人生のうち半分以上を俊樹と過ごしてる。
ほんと、良くも悪くも、だけど。
親同士も仲がいい。
何かにつけて、合同イベントで盛り上がってる。
だから今まで学校だってずっと一緒。
登校も一緒で、帰りも一緒が多かった。
楽しいことを一緒に楽しいと思えて、一緒に笑ってきた。
そういう意味で、結構あたしは幸せ者だと思っていた。

見たくないものを見る日が来るまでは。
知りたくないものを知る日が来るまでは。
不安にかられて、嫉妬が大きくなって。
あたしはいつの間にか可愛くない女になってた。

「うちのかーちゃんもさ、いつでもいいわよーなんて言ってたし。おばちゃんに言っとけよ」
今度は右のポケットから出した、サッカーボールのキーホルダーを弄りはじめている。
「…わかった」窓の外を見つめながら答えた。
でも、それは見せかけ。
窓に映った俊樹を見てたから。
キーホルダーはフェルト生地っぽくて。
手作り風の可愛いキーホルダー。
人差し指にひっかけて、クルクルと回している。

「……中野も、次はちゃんと来いよ」


俊樹の低い声に、心臓を鷲掴みにされるような衝撃。
ドクドクドク、と、早い鼓動が俊樹に聞こえそうで焦った。
外に目を向けながら焦点が定まらない。
雨音が更に一層、耳障りになる。
「―――…あたし、暇人じゃないし」
軽くあしらって笑いの方向へ持っていくのが精一杯。
「なぬ、お前、俺は暇だと言いたいんだなコラ」
少し空気が和んでホッとした。
俊樹がノってくれる奴でよかった、と思った。
「ま、中野が来たいと思ったら来りゃいいッスよ」
軽く微笑みながらキーホルダーを弄っている。
その気遣いが嬉しくて、あたしの胸はキュッと音を鳴らす。

あの時……告白なんかしなければよかったな。

後悔しない、って決めたはずの告白は、後を引きずるものになった。
あんなに近くにいたのに。
誰よりも一番仲が良かったのに。
それを壊したのはあたし。
自分のものにしようとしたあたし。
幼馴染という枠を超えて、異性として意識し始めたあたし。
でもそう思ってたのは、あたしだけ。
あの告白から、俊樹はあたしを苗字で呼ぶ。
ギクシャクした関係が苦しくて、辛くて、あたしは俊樹を避けた。
俊樹はこんなにもあたしに歩み寄ってきてくれるのに。
前に進もうとしないのはあたしで。
きっとその責任を感じてる、優しい俊樹がここにいる。



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