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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(前編)-18

「洞窟の入り口を塞ぐように、大きな門があるのが見えた…洞窟自体には何の力も感じなかったが、門には強力な術がかかっている。おそらく、狛特有の結界術でしょう。」

狛狗族は、他の狗族とは少し毛色が違う。狗族であることに変わりは無いけれど、その存在意義は狗族のような低級神族よりももっと位の高い神族の近衛兵のような役割をすることにある。だから、狛狗族の数は多くはないし、全てが自分の役職を持っているか、または将来役職に付くための修業中の身であるかどちらかだ。必要以上に子供を生むことはしないし、一度役目に付いたものは死ぬまでその役目を負う。私も、この間の神楽祭りでようやく数人目にしただけだ。

「逃げだしたにしては妙だな。」

颪さんが誰にいうとも無く言った。

「ああ、狛の門術は、姿を隠したいものが行うにしては目立ちすぎる…まるで見つけてくれといわんばかりだ。」

飃の言葉を受けて、さっきはほとんど取り乱していた南風が、落ち着いて言った。

「では、御九尾はまだ生きておられるのですね…だが、敵の姿はおろか、周りに何の気配もない。そして狛に門術を張らせた…」

頭には九尾の安否しかないわけではなかった。

「…何かをおびき寄せようとしているのかもしれません。」

「たとえば、おれとか?」

颪が苛々して言う。

「用があるなら呼びだしゃ良いんだ。そのための九尾守なんだから。わざわざこんな手間を…」

「でも…」

私は、そのやり取りを聞いていた限り誰も予想していなかった可能性を提示してみた。

「誰にも知られたくなかったとしたら?」

その場の空気が凝固したように感じられた。皆が私を見ている。

「用があるなら、もちろん、誰かに言伝するでしょう?多分、やりたいことがあって、誰かに言えば止められるってわかってたから、一人でいったんだと思う。」

颪さんにはそうは思えないようだけど、近畿狗族の長として私に言葉をかけてくれたあの女性が、些細な理由でこんな大事を引き起こすとは思えない。あの人の正体が九尾の狐だとわかってから、私の頭にはいつもあの哀しそうな微笑が思い浮かぶ。懐かしむような、諦めるような…そして、焦がれるようなあの微笑が。

「ちょっとした家出ってか?」

今日の颪さんは、九尾に対する敵意をむき出しにしている。その憎しみの余りの強さに、後ずさりしたくなるほど。私をかばうように肩に置かれた飃の手が、“案ずるな”と、言っていた。

「猫って、死ぬ時に姿をくらますわよね。死に目は見せないとかって。」

奥のほうで茜が声を上げた。


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