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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(前編)-17

「己の家には玄関から入ってもらう。青嵐の舎弟はその程度の礼儀も知らぬか、風巻…?」

澱みではなく、形勢も飃が勝っているらしい。ドアを開けると、床から半身を起こしたまま凍りついたように動かない狗族がいた。その喉元には雨垂が突きつけられている。

「…失礼した。火急の用だったもので。」

冷静沈着な男の髪は、思い切りよく短く切られている。きっと引き結ばれた口も、頑固そうな短い眉もピクリとも動かなかった。飃は時間を無駄にせず、

「青嵐がどうかしたか。」

「は、貴方様をお呼びで御座います。」

何かあったのか、と聞こうとする飃に、男は目を私の後ろの茜に移した。関係ないものを巻き込まないように、という配慮ではなさそうだ。

「九尾守の話なら、隠す必要ないわ。知ってるもの。」

私の耳には馴染みのない、茜の厳しい声が聞こえた。

「“探屋”に用があるならあたしも連れて行かないと。彼、あたしが居ないと仕事が出来ないから。」

「茜!」

―黙って。

茜の目が、私に話させるのを止めた。一瞬ドキッとするくらいの眼差しは、たしかに私が甘く見ていた茜の、強いことを表していた。

「足手まといになるようなら、放り出す。」

茜が助けになるか、ならないかなど問題ではないと、風巻の表情が語った。ようは邪魔さえしなければいいということだ。

でも…と口に出しそうになる私を止めるように、茜が男に言った。

「ほら、急ぐんでしょ?早く案内して。」





この店がこんなに静かだったのは初めてだ。客が居ないのはいつもの事だけど、普段は音楽がある。颪さんの見慣れぬ真面目な表情が、その場の雰囲気を代弁しているかのようだった。いや…彼の事は颪ではなく、青嵐と呼ぶべきなのだろうか…
颪さんは、別にガキ大将と言うほど派手なわけではない。自ら進んで何か行動を起こしたり、誰かをいさめたりするわけではない。小学生だった頃は、そんな風なクラスメイトをよく見てきた。でも、中学にあがるとクラスの中で自然と頼れる存在になってしまうタイプの生徒というものがいる。べつに何かのリーダーになるわけでもないけれど、その人のいうことは自然と皆を納得させてしまう、そんなタイプの生徒が。颪さんはまさにそんな感じだった。

ちょっと適当なところはあるけど、困ったときにはいつも助けてくれるし、最後には彼に頼めばなんとかなるといつも思っていた。ここにきて、それには確かな根拠があったのだと思い知らされた。様々な狗族と関わる生活を送っていれば、青嵐会とその勢力、もとい恐ろしさは嫌でも耳に入る。私の父や飃の母だって、その青嵐会の会員だったのだ。その組織の頭領が、頼れる存在なのは当たり前だ…規模はずいぶん大きいけど。
「…居た!」
カウンターに座っていた私たちは、奥のソファで声をあげた風炎を一斉に振り返った。側についていた茜が、甲斐甲斐しくハンカチと水を差し出した。
「誰が回りに居たか見えたか?」
おろ…いや、青嵐…この際字数が少ない颪さんで良いにしよう。颪さんが立ち上がって、少し気の緩んだ顔で茜に微笑み返す風炎に近づいていった。風炎は颪さんの問いに一瞬考え込んで、答えた。
「少なくとも狛狗族が二人見えた。」
「狛が二人だけ、ですか?澱みは?他に妖怪や神族の気配は無かったのですか?」
誰よりも九尾の身を案じる南風が声を荒げた。風炎は確信に満ちた目を南風から離さずに首を振った。


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