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不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

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確かなモノ-3

「ちょっと倫クン、まだぁ?」
遅れてやって来た李鈴が、僕の腕に手を絡める。
その瞬間、初見さんの眉がピクッと動いた。
「いぇ、もう済みました。さて李鈴さん、どちらへ行きましょうか?」
僕は初見さんの顏を見ながら言った。
彼女の爽やかな笑みはあっという間に薄れ、今は酷く不自然な表情をしている。
良いですね、その表情…やはり、貴方の反応は最高です。


「わぁっ、コレ、新作だぁっ!ねぇ、倫クン…アタシ、コレ欲しいっ!あっ、でも、こっちも良いなぁ……」
贔屓にしているジュエリーブランドのショーケースにへばりつく事、数十分…李鈴はアレコレ目移りしながら、うんうんと唸っている。
僕は適当に相槌を打ちながら、あまり広くはない店内をボーッと見て回った。
店内には、李鈴と同じ様な状態の女性が数人…女というのは、何故こうも光り物が好きなのでしょう?
ちょっと僕には、理解が……おっとこれは、彼女に似合いそうですね。

「ご覧になりますか?」
僕の視線の先にある物に早速気付いた店員が、手袋をしながら商品を取り出す。
「こちらは、先週発売されたばかりの新作なんです。宜しければ、お手にとってご覧ください」
「えぇ。では、お言葉に甘えて」
華やかなのにどこか清楚で気取らないデザインのネックレスは、見れば見るほど彼女に似合いそうだ。
もちろん李鈴ではなく、初見さんに……
そういえば僕は、初見さんの喜んだ顔は見た事が有りませんでしたね。いつも、わざと彼女を怒らせてますから。
いえ、それ以前に…かなり驚くでしょうね、初見さんなら。喜ぶよりも、変に勘ぐって警戒してしまうかもしれません。
彼女の様々な表情を想像してしまい、つい口許が緩む。
まぁ、どの反応をされても、僕を楽しませてくれる事は間違いないでしょう。

「コレ、頂けますか?」
「ありがとうございます。プレゼント用にお包み致しますか?」
「お願いします」
「キャー、カワイイ!それ、李鈴に?嬉しーいっ!」
いつの間にか後ろにいた李鈴が、興奮しながら声を上げた。
ったく…いつからそこで見てたんですか?

「残念ながら、李鈴さん用ではないんですよ」
「えー、だって、そのデザインはいかにも“李鈴”ってカンジじゃない?ねぇ、ねぇっ、そう思うでしょ?」
「いいえ、思いません。李鈴さんには、ちょっと大人過ぎます」
「えーっ、じゃぁ、誰にあげるのよぉ?」
それは、初見さん…とは、言えませんね。
「内緒です」
「教えてくれなきゃ許さないっ!仕事、全部ボイコットしてやるっ!」
李鈴は、頑として譲らない。ブツブツ言いながら、店員までをも巻き込み始めている。
はて、どうしたものか……

「姉の誕生日プレゼントです」
「……倫クン、一人っ子じゃない」
う゛、僕とした事が…こんな見え見えな言い訳を使ってしまうとは……
「え、えぇっと…そう、イトコです!イトコの誕生日プレゼントです!」
「イトコの…お姉サン?」
「そうです!」
「ふぅん…なぁんだ、安心した!じゃぁ、李鈴にも何か買って!」
「仕方ないですねぇ…何が欲しいんです?」
「えぇっとぉ…」
李鈴は上機嫌になって、またショーケースに顔を近付けて選び始めた。
僕はホッと胸を撫で下ろす。
李鈴が馬鹿で助かりましたよ。
まぁ、バレたからって、特に問題は無いんですけどね。
なんとなく…面倒ですから。


あの時に買った品物が、先程、李鈴から取り上げたコレ…残念ながら、まだ僕の手元に有る。
本当は、買った次の日に渡そうと思っていた。
でも…彼女は来なかった。
華やかなイルミネーションの点灯式を眺めながら、初見さんの反応を思い浮かべたりして…僕は柄にもなく、彼女が来るのを待っていた。
まぁ、あの初見さんが僕の誘いに素直に乗るなんて、最初から思ってはいませんでしたが…少し期待していたのも事実です。


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