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不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

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確かなモノ-2

「アンタなんか大嫌いよ」
熱を帯た体を逃がしてやると、彼女はキスの痕跡が残るその唇で、僕に冷たい言葉を吐く。
そしてこちらを鋭く睨みつけたまま、腕の中を抜けて行った。
相変わらず、彼女の反応は最高だ。昔から、彼女だけは他の女共と違う反応をするから面白い。
さて、今度は…どんな手を使って追い詰めてやりましょうか……
僕は彼女が出ていったドアを見つめ、口の端に付いた口紅を指で拭った。


ドンドンドンドン…
「ねぇ、倫クン居るのぉ?今、声聞こえたんだけどぉ…倫クン、聞いてる?ねぇ、り〜んくぅぅんっ!」
そんなに声を張らなくても、ちゃんと聞こえてますって。
ドアを一枚隔てた向こうから、彼女と引き換えででもあるかの様に、騒音にしか聞こえない李鈴の声が響く。
しかも数分前には、このやかましい声に見事に邪魔をされた。
全くもって、いい迷惑です。

「ここはホテルですよ?大声を出すのは、感心しませんねぇ」
僕は目の前のドアを開けた。
李鈴が膨れっ面をして僕を見る。
「だって、倫クンが居留守なんか使うからだもぉん…倫クンのせいだもぉん……」
「仕方ないでしょう?仕事をしていたんですから」
「……李鈴の相手も出来ない程の仕事って何よぉ?」
「決まってるでしょう?李鈴さんのスケジュール管理です」
「アタシの?じゃぁ、許す!」
つい今しがた怒っていたのに、もう機嫌が治っている。
こんな嘘も見抜けないで騙されるなんて…何とも幸せな人ですね、貴方は。

「ねぇ、倫くぅん…イイコトしよ?」
言いながら李鈴は、無理やり部屋の中に押し入って来る。そして、僕の首に腕を絡めて物欲しげに瞳を閉じた。
李鈴が愛用している香水の甘ったるい香りに、吐気がする。普段は気にならない香りが、今日はやけに不快だ。
せっかく、初見さんをからかって良い気分だったというのに…これでは台無しです。

「李鈴さん、言ったでしょう?僕は仕事をしているんです」
「だからなぁに?せっかくの休みなんだから、李鈴の相手してよぉ……」
「李鈴さんが休みだからって、僕まで休む訳にはいかないんです」
俺は李鈴の肩を押して、無理矢理体を離した。
「えぇーっ!?良いじゃない、少しくらい」
「仕事、溜ってるんです」
「ケチ、ケチ、ドケチ!今日はいつも頑張ってる李鈴へのご褒美の日だったんじゃないの?」
えぇ、そう思ってましたよ。初見さんに会うまではね。
「だからぁ、李鈴とイイコトしてくれなきゃヤダヤダヤダ!」
言いながら李鈴は、また僕の首に腕をまわす。そして、ギュッとしがみついた。
まったく…ワガママにも程があります。これだから、女というものは…おっと、例外もいましたね。
まぁ、良いでしょう。
李鈴を連れて、その“例外さん”の顔でも拝みに行きますか。


僕は迷わず、フロントカウンターの中央に立つ初見さんの所へと向かった。
「すみません、鍵を預かって頂けますか?」
「こんばんは、霜村様」
彼女は僕を見るなり、不機嫌オーラを発しながら、一見は爽やかな営業スマイルを浮かべる。
「カードキーは、お持ち歩き頂いて結構です」
おや?何やら、言葉には若干のトゲが……
「いぇ、無くしたら嫌なので」
「再発行致しますので、ご心配なく」
なるほど…さては、僕にまた来られるのが嫌なのですね?
実に貴方らしい。


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