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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<前編>-7

「そうね。でも、少なくとも聖の心は瀬沼のものよ。それくらい、松田なら気付いてるでしょ?」
「………」
「何も言わずにSクラスに通ってるのだって、一番は瀬沼に会いたいからだって…本当は気付いてるくせに」
「だったら何?」
「もう聖のことは諦めたら?松田の想いは、聖を傷つけることしかしない。そうでしょ?」
(傷つける…か……)
「………水沢に言われる筋合いは無いよ」
俺は一言そう言うと、水沢に背を向けた。

水沢に指摘されるまでもなく、俺だってちゃんと気付いてる。気付いてて俺は、必要以上に宮木さんのそばに居た。
でも、敢えて目を背けていた。宮木さんが傷ついているという、事実から。
それなのに…水沢の言葉が胸の奥にグサッときたのは、何故だろう……


「………では、今日はここまで。お疲れ様でした」
俺の声と同時に、委員の皆がいそいそと席を立つ。
今日の委員会はだいぶ長引いてしまって、教室にはほんのり赤い西日が射し込み始めている。
そんな中、全く席を立とうとしない人が一人…宮木さんだ。窓の外を無表情でジッと見つめたまま、人形の様に動かない。

「宮木さん、み〜や〜ぎ〜さんっ!」
「うわっ!」
俺が覗き込むと、宮木さんの顔に一瞬で表情が戻った。これでもかって程に目を見開いて、全身で驚きを表現している。
「委員会…終わったけど?」
「え?」
「今日の話、全然聞いてなかったでしょ?」
(まったく…なに考えてたんだか……)
「ご、ごめんなさい…」
そう言って宮木さんは、萎縮してしゅんと肩を落とした。
(怒ってる訳ではないんだけどな……)

「まぁ、良いけどさ…アンケートの件、ちょっと訂正して本刷りに移す事になったから」
「そうなんだ…」
「それで、今日中に訂正だけでも済ませちゃいたいんだけど、大丈夫かな?帰り送るから……」
俺は少し大袈裟に窓の外へと視線をやった。西に傾きかけた陽の光に、目を細める。
いくら宮木さんでも、これくらいの意味は分かるだろう…って、本当は宮木さんを送る口実が欲しかっただけだけど……

「うん。大丈夫だよ!場所はまた松田君のクラスで良いの?」
宮木さんはチラッと外へ目をやった後、柔らかく微笑みながら言ってくれた。
それなのに俺は、その微笑みに笑い返す事が出来ない。
『瀬沼に会いたいから』
水沢の言葉が、急に頭を過ぎる。
「……そうだね」
「ぇ?」
「そうしよっか!じゃぁ、俺は鍵を返してから行くから、先に行っててくれるかな?」
「う、うん」
俺は宮木さんに気付かれない様に無理矢理テンションを上げると、足早にその場を離れた。


『聖を傷つけることしかしない』
水沢の言葉が、頭の中をグルグルと回っている。回りすぎて吐きそうな程だ。
あんな言葉に振り回されるなんて、今日の俺はどうかしてる。
でも、それをやっとの思いで振り払って、俺は自分のクラスへと急いだ。
宮木さんをあまり待たせてはいけないからね。


教室の近くまで来た時、何やら痴話喧嘩でもしているかの様な話し声が聞こえてきた。
俺は息を殺して、教室の中をそっと覗く。

(な、んだよ…これ……)
見た瞬間、その場から全く動けなくなってしまった。
目の前の出来事から視線を逸らす事も出来ずに、ただただ茫然と立ち尽くしてしまう。
教室の中…夕陽に照らされながら、光輝が宮木さんを抱き寄せた。
ふわっと…まるで映画のワンシーンみたいに……


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