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10年越しの約束
【初恋 恋愛小説】

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10年越しの絆<前編>-1

一目見た瞬間に相手を好きになるなんてこと、俺は絶対に無いと思ってた。
でもあの日、あの景色、あの空気…彼女を取り巻く空間に、思わず目が奪われていた。
俺・松田 博也(マツダ ヒロヤ)が彼女と初めて会ったのは、桜が咲き誇る4月…高校の入学式の日だった。


『え〜、新入生の皆さんは……』
スピーカーから、機械的な音が混じる校内放送が聞こえている。内容は俺達新入生に向けられているものだ。
校庭にはまだぎこちない制服に身を包んだ生徒が集まり、クラス分けの掲示物を見ながらガヤガヤと賑わっている。
1学年1クラスだけの進学クラスへ入学する俺には全く関係の無い代物だけど、とりあえず確認だけはしておこうと思い、人混みへと足を向けた。

と、その時…すれ違いざまに目の端に映った姿が、俺の歩みを止めさせる。
一瞬だけど確かに映った姿をもう一度確認したくて、俺は今来た方向を振り返った。

(なんだ?この気持ち…)
一瞬でスッと何かに吸い込まれた様な…そんな感じがする。
視線の先に立つ一人の女の子…その子は愛しそうに桜の花を見つめ、無邪気に散り行く花びらを掴もうと手を伸ばしている。
新入生達が足早に掲示板へと向かう中、彼女の周りだけは、まるで別世界の様にゆっくりとした時間が流れている。
俺は振り返った瞬間から全てを忘れて、ただただその光景を見つめてしまっていた。


「はよっ、博也!こんな所につっ立って、何やってんだ?」
不意に肩を叩かれて、ざわめきの中へと引き戻される。
振り返るとそこには、中学からの友人である瀬沼 光輝(セヌマ コウキ)の姿が有った。

「あぁ、光輝か…」
「『光輝か…』じゃねぇだろっ!入学早々、遅刻するぞ?」
「は?もうそんな時間?」
「ったく…なに、寝惚けたこと言ってんだよ……」
光輝は肩を落として、あからさまな呆れ顔をしている。
それもその筈…俺はまだ、少し前までの余韻を引きずっている。花びらと戯れる彼女の姿が、頭の中から離れない。

「あの子…」
「は?」
「いや、何組かなって……」
惚ける俺に向かって光輝は一つ大きなため息を吐くと、諦めた様に口を開いた。
「誰?」
「え?あぁ、そこに…って、居ない……」
振り返ると、そこに有るのは桜の木だけで、彼女の姿はどこにも見当たらない。
(夢…だったのか?)
自分が見ていた光景が、現実のものだったという確信が持てない。それ程に、彼女の姿は美しかったから……

「悪い、光輝。俺の……」
勘違いだった…そう言おうとして、俺は口をつぐんだ。
隣に立つ光輝が、目を細めて桜の花を愛しそうに見つめていたからだ。まるで、別人の様な空気を纏って……

「あっ、悪い。で、なんだっけ?」
ジッと見られていることにやっと気付いた光輝が、慌てて俺の方を見る。
もうさっきまでの別人の様な空気は、すっかり影を潜めている。
(なんだ?こいつ…)
「もう良いよ、光輝。それより、急がないと本当に遅刻だね」
「ったく、よく言うよ…お前がボケっとしてたのが悪いんだろ?」
「まぁまぁ!ほら、早く行こう!」
光輝の様子に若干の違和感を感じながらも、俺は何事も無かったかの様に、光輝と連れだって校舎内へと急いだ。


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