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『彼方から……』
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『彼方から……』-11

カタタン、カタタン……

平日の朝、普段なら混雑している筈の電車も郊外を目指す方向だと人影はまばらなのね……

電車に揺られながら、ぼんやりとそんな事を考えている自分に思わずクスッと笑みが零れた。

穏やかな天気と同じ様に、不思議と心は静かだ。これから自分がする事への恐怖も後悔も無い……

いいえ、少しだけ後悔してる。自分の両親と克樹の両親に対して……
だって本当の事を言ったら止められるってわかってるもの。

そして、ポチの事……

あたしと克樹にしか慣れなかったあの子の事が少し心配。

でも連れて行く訳にはいかないでしょう?

電車に乗る前に克樹のお墓にも行って来た。今から行くねって報告したの。それから克樹のお母さんにも……

「克樹くんとの想い出の場所に行って、気持ちを整理してくるんです。」

お母さんは静かに笑って、気をつけてねって言ってくれた。

大丈夫です。克樹が迎えに来てくれるんですから。

本当はそう言いたかったけど、やめたの。だって、誰にも邪魔されたくなかったから。

克樹との約束だから……

あの時のポチの行動を見て、克樹はそこにいるんだって確信した。そしてあたしのお願いを蛍光灯を割って答えてくれたんだよね?

前を走るあたしを追い越して、あなたは逝ってしまった。だけど、もうすぐ追い付くよ。待っててくれるんだよね?

電車は向かう。あたしとあなたが初めて出会った場所へと……


『ねー、美宇。火が着かないよ?』
『そうだね。男子は料理始めちゃってるから急がなきゃ……でもなんで着かないんだろ?』

大学のサークルに入って最初の親睦会を兼ねたキャンプにあたしは来ていた。

男子は料理担当で、女子はご飯担当。お米は研いだけど肝心の釜戸に火が着かない。気持ちばっかり焦って、どうしていいかわからなかった。

『火、着かないの?』

その声に振り返ると、あなたが立っていた。


『どれどれ……』

手早く火を起こすあなたを見て、まるで魔法使いみたいだって思った。

『俺さ、勉強はダメだけど、こういうコトは得意なんだ。あはは』

屈託の無いあなたの笑顔は、そのまま太陽みたいだった。

『あの人、三年生の渡瀬って言う人らしいよ。』
『ふーん……』

それ以来、あなたを目で追う回数がどんどん増えていく。名前が克樹ってコトもわかった。少しずつあなたのコトを知るたびに、あなたの存在はあたしの中で大きくなっていく。

ふふっ、凄くお人よしだってコトもわかったのよ?

あれは学祭の準備をしていた時だったね。

『克樹ぃ…俺、今日この後バイトがあってさ……』
『ああ、俺がやっとくよ。』
『渡瀬先輩。私、門限があって……』
『おお、俺に任せとけ。』

あんなに引き受けちゃって平気なのかな?側で見ていてあたしは気が気じゃなかった。自分の仕事だってあるのに……

あたしも門限があるから遅くはなれない。だから、せめて朝一番で来ようと思った。だって終わらないよ、あんなに沢山……

そんなあたしの気も知らないで、あなたは鼻歌混じりに作業を続けてた。

翌日、何とか早起きして大学に来たあたしが見たのは、全ての作業を終えて机をベッドがわりに並べて寝ているあなたの姿だった。

なんて凄い人なんだろう。不屈の精神と責任感。この出来事であなたに傾いていく気持ちは急加速していった。

『え?彼女?』
『はい。渡瀬先輩って彼女いるんですか?』

加速する気持ちは止められない。あたしは思い切ってあなたに聞いたよね。

『柚木ちゃん、辛いコト聞くなよ。俺みたいなアウトドアしか能が無い奴を好きだなんて物好きがいると思うかい?』
『います!!ここにいます!』
『はぇ?ゆ、柚木ちゃん?』
『あたし、渡瀬先輩の彼女になりたいです!!ダメですか?』

これも若さって奴?あたしは思い出し笑いをしてた。
だって克樹ってば目を白黒させて、顔が真っ赤だったんだもん。

『ダ、ダメじゃないよ、嬉しいよ。でもさ、俺なんかのどこがいい訳?頭悪いしさ、ボケッとしてるし…。柚木ちゃんぐらい可愛かったら、いくらでも……』
『あたしは渡瀬先輩がいいんです!あたし、先輩の根性があるとこが好きなんです。』
『こ、根性?根性ねぇ……。よし、決めた!!改めてこちらこそお願いします、美宇ちゃん。』

そう言って照れながら、あの太陽みたいな笑顔を見せてくれた。


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