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『彼方から……』
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『彼方から……』-1

それは……

突然の出来事だった……


「美宇(みう)、次の回だってあるんだから走るなよ。」
「嫌よ!だって、やっと久しぶりに克樹(かつき)と休みが重なったのよ?時間を無駄にしたくないじゃない。」

俺は苦笑いを浮かべながら、前を走る美宇の後を追った。

俺の名前は渡瀬(わたせ)克樹、24才。何の変哲もない普通のサラリーマンだ。とは言え、うちの会社は年中無休で休みはローテーション。下っ端の俺の意見など通るワケなく不規則な曜日に休みになる。

「美宇、映画館は逃げやしないってば……だから、落ち着けよ。」
「この映画、克樹と見るって決めてたんだから!あたしは次の回まで時間を気にしながら暇を潰すなんて嫌なの。だから急いで!」

彼女の名前は柚木(ゆずき)美宇、俺の彼女だ。大学の後輩で今年卒業して就職した社会人一年生。俺の職場と違って定休日があるけど、休みが俺とはなかなか噛み合わない。そんな俺達だけど、久しぶりに休みが重なり今日はこうして映画を見に行く事になった。

「なぁ……もう、無理だってば。」

学生時代に較べて格段に体力が落ちたのか、俺の息はすでに上がり始めている。いや、ただ単に運動不足のせいだろう。何とか絞り出す様に俺が呟くと前を走っていた美宇の足が止まり、こっちを振り向いて歩いて来た。

やれやれ、やっとわかってくれたか……

前屈みになって肩で息をしている俺の手をそっと握ると彼女はにんまりと笑う。そして

そして……

「ダ〜〜ッシュ!!」

あろう事か俺の手を握ったまま、さっきよりもスピードを上げて走り始めた。

「うわわっ!ちょ、おい!み、美宇!!」
「克樹!その癖直しなさいって言ったでしょ?」
「え?」
「悪い癖だよ。そうやってすぐに諦めちゃうのは。なんだって諦めない限り無理じゃないの!!歯を食いしばって頑張って、それでもダメだったならその時に考えればいいの!!」

まったくコイツには敵わないな……

手を引っ張られながら、俺は再び苦笑いをする。美宇の昔からの口癖。努力した時間は無駄じゃない。諦めて何となく過ごす時間こそが無駄なんだと……

無理って思った時から無理なのよ?

今まで何度その言葉に励まされた事だろう。進級がヤバかった時も、就職が内定しなくてヤケになってた時もコイツはいつもそう言ってた。

克樹、あなたはホントは凄いんだよ?誰にも負けない根性があるんだよ?あたしはそこが好きなんだもん。

大学時代、付き合い始めた頃に俺のどこがいいのか聞いた時、美宇は笑ってそう言った。

馬鹿、お前の方が凄ぇんだよ。いつも俺をその気にさせるんだから……

「よおぉっし!!んじゃま、根性見せるとしますかね?美宇サン。」

きっと明日は筋肉痛だろうなぁ……と心の中で呟きながら、気合いを入れて俺は走り始めた。

そう、今日の次は明日だと何の疑いも持っていなかった。

そして、あの時信号は確かに青だった……



「あれ?ここどこだ?」

気付くと俺はここに居た。何とも形容しがたい場所に……


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