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「風雲鬼」
【ファンタジー 恋愛小説】

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「風雲鬼」〜第三話『暖かい夜の話』〜-1

 フラフラと歩き出す三雲。戸惑いながらもその後を追い掛けるミコ。
対岸には、桜色の着物姿の女の子。
この瞬間、三人を繋ぐ見えない何かが音を立てて動き始めた。



第三話
暖かい夜の話


三雲の頭の中は、無色透明の水上に色のついた滴をひとつ落としたような、そんな感じだった。
真っ白に近い頭の中で、ひとつの色、ひとつのことしか考えられない。だけど、その波紋はぼやけていて不確か。
期待の分だけ、疑問もある。疑問の分だけ、不安も生まれる。
入り乱れる期待と不安。
あの女の子の正体は?
…と。


泉沿いに歩くこと十数分。三雲たちは、対岸に辿り着いた。
真っ先に声を発したのは、その間ずっと泉を眺めていた女の子の方だった。

「誰、あなたたち?」

言いながら女の子は立ち上がる。
こちらを向いたその顔は驚きと恐れを抱いているようであり、何か期待が混じっているようにも見えた。
ミコは彼女を物の怪の類ではないかと疑っていたので、人間の子と分かりホッとする。
 ミコより二歩前に立った三雲は、たどたどしい口調で女の子に聞いた。

「俺のこと、わかるか?」

 頷いてくれ、頼む……。目を細める三雲。

だが、願いは叶わない。

「ううん」

女の子は、首を横に振った。
三雲の頭の中に、墨のような黒々とした滴が落ちた。だがそれは思いの外、三雲を落ち着かせたようだった。
「そうか、……そうだよな」
月光に淡く照らされた女の子の顔。
大きな目、反対に小さめの鼻と口。特徴のある頬。
 似ている。確かに似ている。舞に……そっくりだ。
でも違う。顔は似ていても、雰囲気で分かる。
あの頃ずっと一緒にいた舞とは、…違う。

三雲は鼻から静かに深く息を吐き、かぶりを振って再び女の子に焦点を合わせた。
そしていくらか落ち着いた様子で、光射す月に目を移しながら言った。

「三雲。俺の名前」

見上げる夜空に、雲はひとつも無い。
美しい、月の夜。

「みくも、さんですね。じゃあそっちの巫女さんは?」
「わ、私? ミコ……です」
少し顔を緊張させながら言うミコに、女の子は微笑みながら首を傾げた。
「おかしな人ですね。だから、巫女さんのお名前は?」
「いや、だから…」
「ミコっていうんだ。こいつの名前」
困り顔のミコを、三雲が遮る。同時にミコの頭にポンと手を乗せた。

「へぇ、すごいですね。ミコと名付けられた子が本当に巫女に。
そういえば、昔会った巫女さんはもっと難しい名前でしたよ。巫女になった時に襲名したらしいですけど」

最初は笑っていた女の子だが、だんだんと疑念混じりの顔になってきた。


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