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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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ICHIZU…E-4

「あの〜、おばさん。周りの目もありますから、もう少し小さな声で…」

「エッ?」

加奈は周りを見回した。確かにこちらを見てクスクスと笑っていた。
〈いけない!ついジュニア時代のクセが…〉

そう思った加奈は淳に頭を下げると、

「ごめんね」

「いえいえ」

加奈の頭を下げる姿など初めて見た淳は、慌てて両手を横に振ると、

「もうすぐ開会式も始まりますから」

そう言うと、そそくさと自分の席へと戻って行った。
健司はなおも三脚の調整を行っていた。



球場裏の入口には、学校名の書かれたプラカードを持つ女性徒を先頭にして、各校が列を成して待機していた。
その一番右には前回優勝校である青葉中学。信也の手には真っ赤な優勝旗が握られてていた。

〈あれが優勝旗かあ…〉

大きさはそれほどでもないが、フエルト状の布に銀糸で〈中学校体育連盟主催 地区野球大会 優勝〉と書かれ、周りには金糸のフサが施してある。
他チームの選手の目も、それを見ている。佳代だけでなく誰もが一度は手にしたいという想いは同じだ。

「ところでさあ…」

と、佳代は前に立つ山下の背中をつつく。

「何?」

「入場行進ってどうやるの?」

山下はやや呆れた顔で、

「どうやるって、オマエ去年も見てたじゃないか」

「忘れちゃった。それに去年は別の球場だったし」

「球場違ってもグランドに違いは無いだろ」

「やっぱり歩調合わせて歩くの?」

〈何を今さら〉と山下は思った。甲子園の入場行進でさえ歩調を合わせるのを止めて随分経つのだ。
しかし、山下はいたずらっぽい顔をすると佳代に言った。

「先輩達の歩調を真似してりゃ良いさ」

それだけ言うと山下は前を向いた。その顔は明らかに笑っていた。


〈ドーン〉という合図の花火があがった。その後を追うように場内に女性徒のアナウンスが流れる。

《お待たせしました。ただいまより、第56回、中学校体育連盟主催による野球大会地区予選会を開催致します》

アナウンスと共に沸きあがる観客席。
場内スピーカーから軽快な行進曲が流れる。

《選手入場》

「行くぞ!」

球場裏で信也は皆に声を掛けた。

(口から心臓が飛び出しそうだ)

佳代の緊張感はピークに達していた。


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