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忘れてしまった君の詩
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忘れてしまった君の詩-9

「昔の『僕』を押しつけないでくれ!」
場の空気がいっぺんに凍りつく。
それにも関わらず、僕の頭は冷めるどころか熱くなるばかりだった。
「僕は二人が知ってたような『僕』じゃないんだ!同じ顔で、同じ頭で、同じ体で、同じ声だけど、それでも僕は昔の『僕』じゃない!今ある僕を無視して、昔の『僕』を押しつけないでくれよ!そんなんじゃ、二人も他の奴らと一緒じゃないか!!」
しまった、と思った時にはもう遅い。
言ってはいけないことを、僕は口にしてしまったのだ。
吐いた言葉がそのまま出た口に戻ることは決してありえないことだ。
「あ、あの…」
「た、龍麻…?」
二人はとても罰が悪そうな顔をして僕を見ていた。本当にそうだったかは、わからない。
僕はそんな二人から一歩下がって俯いていたから。だからそれは、僕の頭が勝手に捏造した光景に過ぎない。
しかし、僕は居たたまれなくて、二人の言葉の先を遮るように、言った。
「ごめん。二人とも、先に帰っててくれないかな…」「た、龍麻!?」
「俺…、僕は少し頭を冷やしてから帰るからさ。気にしないでいいから…それじゃ」
「ちょっ、お兄ちゃん!?」
止められることはわかっていた。
 だから、僕は全力で、ただ闇雲に走った。
走って、走って、走って、走って…。
気がついたら、僕は学校へと来ていた。
かなり走ったつもりだったけど、どうやら、ただ単に遠回りして元来た道を辿っていたに過ぎなかったみたいだ。
僕は力ない足取りで正門を潜り、昇降口へと向かった。
日はすっかり暮れている。
 多分そうだろうと思っていたが、思ったとおり、生徒用のそれは内側から鍵がかけられ、開けられないようになっていた。
気を取り直し、僕は教職員用のそれへと向かった。途中、駐車場を通ったが、職員のものらしき車が数台止められていた。
まだ何人かの先生は学校に残って仕事をしているのだろう。
そして、その通りだった。
教職員用の出入口から僕は中に入ることが出来た。靴を脱ぎ、そこにあったスリッパを一足拝借する。脱いだ靴を右手に、左手にスリッパをまとめて持った間抜けな格好で、入ってすぐのところにあった階段を上る。
一段、二段、三段…。
足音を発てないよう、気を配りながら上った。
その甲斐あって、誰にも見咎められず、二階に着いた。
だが、まだだ。
僕が目指すのは、教職棟四階の一角にある、国語準備室。
そこに辿り着くには、あと二階分上らなければならない。
『わからないことや、困ったことがあれば、私にいつでも話せ。』
朝方、英里先生に言われた言葉が頭の中で響く。
 我ながら頼るには早過ぎるとは思うが、どうしても彼女に話を聞いてもらいたかったのだ。
 僕は細心の注意を払いながら、階段を上った。
一段、二段、三段…。
三階に着いた。
また、階段を上る。
一段、二段…と、笑い声が響いた。
『藤田先生もそう思いますか?』
『ええ。去年きた新人はどれも変り者ばかり。とりわけあの二人は…』
心臓が飛び跳ねるのがわかった。
ドクドクという音が、うるさく頭に鳴り響く。
僕は素早く、辺りを見渡した。
声が聞こえてきたのは、さっきまで僕がいた三階部分だ。
今、僕がいるのはその三階と四階のちょうど真ん中にある踊り場。
身を隠せる場所は一つ、三階からは見えない上り階段だけだ。
しかし、そうなると四階からは僕の姿が丸見えになってしまう。
『あの二人も黙って立っていれば申し分ないんですがねぇ…』
『いや、まったく。神様というのは、勿体ないことをするもんですわ』
声の発信源は先程よりも大分近づいてきている。
もはや、迷っている暇は、僕にはなかった。
『藤田先生もなかなかひどい事を仰いますな』
『近藤先生こそ、随分な言い様じゃなかったですか』(……ふぅ〜)
声の主たちを目の端に捉えるか捉えないかのギリギリのところで、僕は危うく死角に滑り込んだ。
幸いにして、四階に人影はなく、先生たちも、二階へと下っていくようだった。
多分、一階にある職員室へと向かう途中だったのだろう。
僕は相変わらず、うるさくがなりたてる心臓を宥めてから、残りの階段を上った。


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