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【青春 恋愛小説】

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夏〜第二章〜-1

青い空に白く大きな入道雲。
白が青を浸食するように入道雲は薄く広がっていく。
ただ単純なその景色は、何の意味もなく永遠と繰り返される。
ずっと見ていたいとは思わないが、なかなか美しい景色だ。
ただ。
ただ。
暑い。
木陰に涼しい風も、気休めに過ぎず、一瞬の幸せを与える風は、むしろ俺に嫌悪感を募らせた。
「暑っつ……」
呟いて休まるほど、夏は甘くはない。
そうは思いつつも、独り言を呟くとはもしかしたら、俺は淋しいのかもしれない。
「ふっ」
自分のよぎった考えに、思わず笑みが零れる。
たしかに、ここ二週間ばかり人に会ってはいない。
だが、その程度で淋しさを感じられるほど俺は人に近くはない。



気がつけば、俺は『鬼』になっていた。
もちろん実際に角が生えて鬼になったわけではない。
そう噂されるようになっただけだ。
おそらく、人を何の躊躇いもなく殺し続ける俺は、きっと人々の目に奇異に映ったのだろう。
だからそんな称号を与えられたのだと思う。
俺は孤児だった。
俺の生まれる前に忍びであった父親は死に、俺が生まれた直後に母親は死んだ。
その後は、里のほとんど関係のないような遠い親戚に預けられ、ツラい日々を送った。
里のものは皆、冷たかった。
たぶん俺の里は血族の結束の強いからだろう。
俺についてすべての事について、無関心であり、無感情であり、無慈悲であった。
いや、疎んじられてさえいたかもしれない。
そのせいか俺は愛という物を受けていない。
だからおそらく、人間に対する情や愛が欠如しているのだろう。
愛を受けぬ者が愛を与える事はできないのだから。



しばらくして、ひさびさの人に出会った。
30人程の大人数で、忍びの俺を見るやいなや、手を振って近づいて来た。
だが、残念ながら彼らは、敵意を持っていた。
だから仕方がない、仕方がないので、殺そうと思った。
幸い馬に乗った面倒な相手はいない。ただの山賊だ。
地面を蹴る。
首が飛ぶ。
山賊達の驚きの顔が目に映る。
刀が振り下ろされる。
振り下ろされた刀ごと腕が飛ぶ。
驚きは恐怖に変わる。
そして、いつしか周りは血の海になっていた。
ただ無感情に、無意識に、作業的に、淡々とそれを繰り返す。
思えば殺しとは、俺にとって睡眠のようなものだ。
それくらい安易で、日常的で、なにより必要な物なのだ。
「ばっ!化け物!」
最後の一人にトドメを刺そうと近づく。
彼は腰を抜かしたらしく立ち上がれず、ただ這いつくばって逃げるだけだった。
「来るな、来るなぁあああ……」
思わず失禁する山賊。
あまりの滑稽さに、俺は辟易した。
命はこんなにも軽いのに、どうしてそこまで生に固執するのか。
俺には到底わからない。
刀を振りかざす。
この刀を一振りしただけで、命は消えてしまうのだ。
何て脆く、ちゃっちいのだろう。


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