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【青春 恋愛小説】

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夏〜第二章〜-2

パン

油断はそこにあった。
普段持たないような僅かな情けを持ったのが、俺の敗因だった。
「火縄銃か」
左脇腹が焼けるように熱い。
どうやらなかなか深い傷らしい。
押さえたところでどうにもならず、逆に気が遠くなるほどだ。
なるほど。
人が生へ固執する理由が少しわかった気がした。
「へへっ……」
目の前の山賊が引きつったような笑みを浮かべる。
勝ったとでも、思ったのだろう。
悔しいので、そのまんまの顔で首を落としてやった。
「後はお前一人だ」
振り返り鉄砲主を探す。
ほどなくして、木の上で、ギョッとした顔のまま固まっている鉄砲主を見つける。
その顔も冥途の土産に持っていくとしよう。
クナイを握り締め、真っ直ぐ、鉄砲主目掛けて投下した。
鉄砲主は、何とか身を交わすもバランスを崩した。
すかさずもう一投し、肩に命中させる。
そこで、彼はついに木から落ちた。
「お返しだ」
間合いを詰め。
ちょうど俺の撃たれた脇腹辺りを突き刺した。
「うっ……」
そして、そこから刀を回転させ腰に力を入れる。
再び一瞬気が遠くなった。
歯を食いしばる。
「りゃああああ!」
渾身の力を込めて刀を上へ引き上げた。
腹から肩にかけて、鉄砲主の体は真っ二つになった。
刀を振り切り思わず膝を付く。
体を支える事ができない。
どうやら俺もここで終わりらしい。
幸い特に痛みはない。
それに伴い、体が麻痺したかのように、徐々に体の感覚が鈍くなっていく。
思えば、今回の任務は決して難しくはなかったはずだ。
山に逃げ出した要人暗殺。
あまりに簡単過ぎて、わざわざ俺が出向くほどの物でもなかったくらいだ。
なのに。
こうして俺は今命を落とそうとしている。
不思議な物だ。
やはり人生は予想のつくものではない。
ふと、視界の端に何かが写った。
昼間なのに暗いその世界の中に少女が立っていた。
黒い長髪に、藍色の着物、赤色の帯。
あどけなさの残る顔からすると、年は12、3才だろうか。
「くっ……」
ついには、膝も俺を支えてくれなくなった。
静かに地面に伏せる。
もう一歩も動けそうもない。
まあ、こんな終わり方も悪くはない。
見知らぬ誰かであっても、俺を看取ってくれる人間がいるのだから。
幸せだ。
声がする。
少女の声。
誰かを呼ぶ声。
俺の名前ではない誰か。
彼女の父親か、果たして母親か。
だが、別に知ったところでどうにもならない。
どうにも……





木の木目が見えた。
強い光が顔を射していた。
これは、おそらく夏の日差し。非常に熱く、眩しい。
もし、ここが地獄、または天国だと言うのなら、あまりにお粗末だ。
血の池も針の山も無ければ、馬鹿らしいほどの快適さもない。
つまり、ここは現実だ。
俺は生きていた。
何とも言えない安心感と、得体の知れない倦怠感が湧き上がる。
正直言ってしまえば、このまま死んでしまっても良かった。


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