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パレット 『初恋を貴方に』
【ボーイズ 恋愛小説】

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パレット 『魔法の言葉』-2

「ただ、やっと帰ってこれたのはいいがお前がいないんじゃなんとなく遣る瀬なくてな。母さんがいるけどどうせ残業だろうし。それに、やっぱり息子と触れ合いたいもんだろ、親は」
特に親父の場合はさ――と付け加えて、親父は笑った。
馬鹿だよ。全然笑えてない。その笑顔が、虚しさでいっぱいじゃないか。
「いや、何でもない。楽しんでこい。最近じゃこんな機会無かったからな」
親父は単身赴任でここ2〜3年間家に帰ってきていなかった。もちろん俺にも会っていない。
だからそんな事言うのだろう。本当は淋しいくせに。会いたかったくせに。
遠回しに親子のスキンシップ風に解釈して伝えてくる。
全部解るんだから。貴男の息子ですもの。
「当たり前だよ。何が何でも行く。雨が降ろうが槍が降ろうがね」
俺は空っぽのグレープフルーツジュースのコップをシンクに置くと、部屋に向かいながら親父に言った。声のトーンを高く。
「嗚呼、ずいぶんと侘しいなぁ。いつからそんな薄情な息子になったぁ?」
わざとらしく溜息を溢してみせ、俺の背中に疑問を投げ掛けてくる。
「前からだよ、親父」
階段を上りながら言った。親父はその後は何も言わなかった。
親父と同じか?俺の胸が苦しくなった。
いつもおふくろが居たから特に意識はしなかったけど、家族と離れて一人で働くなんて。凄いよな。
向こうで借りているアパート。帰っても誰も返事をしてくれないんだ。それは悲しすぎるよなぁ。
たまには俺と触れ合い……(←妄想中)…たくなるんだろう。俺も大変な年頃だからな。親父だっていつも帰ってこれるわけじゃないし。。だからって何が出来るか、といえば。一緒に居ることしか出来ない。
考えれば考える程わかんなくなってく。なんだよ。なんなんだよ。ったく。
泊まり支度をしながらたまにそんな結論に至り、衣服類を投げ飛ばす。
親父ってあんな大きくて、あんなちっぽけだったっけ?
誰もが言う、『背中が小さい』とはこの事だろうか。今の俺に出来る事って、何があるだろう。
何も無いから悩んでんのか。

時間はあっという間に過ぎ只今の時刻 午後六時半。玄関から、俺の作った夕飯を喰っている親父にあいさつをして。俺は気分も上々で足取り軽やかに玄関を出て、昌仁の家へ歩を進めた。
俺の家から昌仁の家は近所というが、そんな近いわけでも無いというかなんというか‥、まぁ歩いて行ける距離なので今日は歩く。
こんな男子高生がスキップとかルンルンでしたら、いい加減に変人扱いされるんだろうな。気分的にはそんな感じ。でも嫌だからね、と自分に言い聞かせて。そしてまた鼻歌を歌いはじめる。
ふと、目の前に広がる夕焼けの光を背に受けて、ある一人の人間が俺の方へ近づいてきた。背に夕焼けをあびているため、顔は影になって見えなく、それが不思議で一体誰なのか気になった。
誰だろう。もうすぐ擦れ違う。
あ―――
「お、晶。今からか?俺、迎えに行こうと思って」
黒く影になって見えなかった顔が、やっと見知った顔へと変わった。
会いたかった―――本当は抱きつきたかったけど、根性で抑える。
よく見てみると、昌仁は左手にコンビニ袋を提げていた。
「え、それ。明らかにコンビニの帰りじゃん」
俺は昌仁の持つ袋を指差しながら言った。そしたら昌仁は照れたように少し笑った。
「バレた?一緒にアイス食べようと思ってさ。実はコンビニの帰りのついで」
わりぃな。
真顔で謝ってくるのが面白くて、俺は思わず吹き出す。
「はははっ、いいよー別に。あ、俺のアイス何?チョコだったらぶっ飛ばすかんな」
昌仁の家の方向へ、改めて向きをかえ歩き始める。昌仁と二人、道を独占して。「あーそっか。お前チョコ駄目だったっけ。そういうとこ面倒臭いよなぁ」
何でさっきからマジな顔で反応すんだよ。ムカつく。「悪かったなぁっ、手間のかかる奴で!!」
昌仁を一人置いてきぼりにし、俺は先に進んだ。子供みたいに怒って、軽く昌仁を殴りたい衝動にかられた。


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