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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてタキタかく語りき3-4

「クリスマスのスペシャルブレンドがあるんだ。よかったら、いかがです?」
「いただきます!」
僕らは異口同音に答え、それぞれ好みのクレープを注文した。
いつもの席に並んで座る。ジュンはお手伝い、と称してお冷やをついで来てくれた。雪遊びをした体には、少し冷たいくらいが快い。
カウンターから豆を挽く音が聞こえ、店内にふわりと香りが広がる。それまで僕らは、冬休みのレポートや集中講義の話に花を咲かせていたが、誰からともなく口をつぐみ、しばらく目を閉じた。
「お待たせしました」
雪の結晶のイラストが散りばめられた揃いのカップが、テーブルに並べられた。
「えぇ香りじゃね〜」
「本当に」
琥珀色の水面に目を落として、カップへと口を近付ける。
ジュンは黙ったままだ。まだ先程の件をひきずっているのだろうか。
そろりと彼女の方をうかがうと、まだコーヒーに口をつけていなかった。
「……どした?」
熱いモノは熱い内に!がモットーの彼女にしては、珍しい。
「いや、イィ香りだなと思って」
そう言って、初めて口が進んだ。
「おいしいな」
それぞれが、ぽつりぽつりと同じ言葉を呟いてはため息を吐いた。
藤川さんはキッチンで嬉しそうに笑みをたたえていた。



店を後にした頃には、お天道様が傾きかけていた。積もっていた真っ白な雪も、道端に濁って固まっている。
「……確かに、冬は朝が一番いいかもしれませんね」
『枕草子』の一節を思い返し、隣にいる筈のジュンに話しかけるも、しぃんと静まり返ったままだ。
「?」
背後に嫌な予感がした。振り返ると、視界が白いモノで覆われる。
「……っストライク!」
軽い衝撃とともに、甲高い声が上がった。
「やってくれましたねえ?」
僕の俊敏たる運動神経があったから、かろうじて直撃を免れたものの……。
髪の毛に残る雪を払ってから、そばの雪を一掴み、先を行くジュンを追いかけた。
「待ちなさいっ」
「そう言われて待つヤツがいるかっ!」
かけっこをしながら、僕の家までノンストップだった。長い黒髪が弧を描いて踊り、時折こちらを向いてはその長細い腕をぶんぶか振り回す。
そのまま二人で競争しながら、僕のアパートへとなだれこんだ。
「いっちばーん!」
ジュンが意気揚々とドアを開いた。が、途端にへなへなと玄関に座り込んでしまった。
「どうしました?」
「ツカレた〜。ふらふらするぅ」
そりゃ、あんだけ走れば酸素欠乏にもなります。
そうでなくとも、女性は貧血のきらいがあるんですから。
……かく言う僕も、息が切れてしまってしゃべるのが億劫で、前述のツッコミを口に出さないでいた。
「ウエ〜〜……」
「大丈夫ですか?」
肩で息をしている彼女の背中をさすってやり、僕は先に玄関を上がった。
少し落ち着いたのか、ジュンはやっと顔をこちらに向けた。
「ほら。靴脱いで」
早くコタツに火を入れたいなあ、なんて思いながら急かすと、彼女はまた何か思いついたらしく、にんまりと笑った。
つんと形の良い顎を反らせて、口を切った。


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