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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてタキタかく語りき3-3

「タキタ。行こ?お腹空いたっ」
目を反らしたまま、僕の二、三歩前を歩き出した。僕は、その後をゆっくりついていく。
時折、振り向く姿がまるで忠実な犬のようで、ついつい笑みがこぼれる。
「何だ?イキナリ」
そう考えると、彼女の体から耳やらしっぽやらが生えているように見えるからたまらない。
「何笑ってンだ?オマエ」
「いやっ。ぷ、くく……っ」
ジュンは最後まで不思議そうにしていたが、僕が笑っているのにつられて笑顔になっていた。
「……オマエ」
そうそう。笑顔は伝染するんですよね。あなたから教えられました。
「ほンっとに笑いジョーゴ!」
彼女はそう言い放ってから、ぴゅんと駆け出した。長い黒髪が流れるように舞い落ちる。
雪の下は凍っているかもしれないのに。
僕は思わず声を荒げた。
「気をつけてくださいよ!」
「ヘーキ!」
くるりと振り向いて、そう言った途端にいい音がした。
「痛あ!」
「言わんこっちゃない……」
ひどく腰を打ったらしく、ジュンはしばらく唸っていた。
「大丈夫ですか?」
「ううゥう……」
よろよろ歩くこと数分。やっとこさ、目当ての店に到着した。
そのクレープ店の軒先には、小さなクリスマスツリーが飾られていて、赤いリボンやらベルやら、きらきら光る球がたわわに実っている。そのかたわらに、シンプルな純白のリースが静かに掛けられていた。二人で「人柄が出てるな」なんて言いあう。
僕は先に、ドアへと続くステップに足をかけた。こちらも、つるつると凍っていて滑りそうだ。
「ジュ……」
「気をつけなさいよ」と、僕が口を開くと同時に叫び声が上がった。
「のわあぁっ!!」
案の定、だ。
「今、言おうとしたのに……」
踏みしめられた雪の罠に見事にかかり、尻モチをついたジュンが恨めしそうにこちらを見上げた。
「バカタキタ!ハヤく言えっ!!」
誰がバカだ、誰がっ。
言い返そうかとも思ったが、あまりに痛そうな顔だったので止めた。
「はいはい」
もう少し女っ気のある叫び声だったらいいのに、と思いながら手を差し出す。
「……ぅぅ」
二度目だし、よほど悔しかったのか、僕の手を取ろうとしない。
「ほれ」
差し出した手をひらひらなびかせる。
「……ダイジョブだっ」
ぴょんと起き上がり、さっさとステップを上がってしまった。
この強情っぱり。
僕はゆっくりステップを上がり、その隣に並ぶ。ドアノブに手をかけようとした途端。
「メリィ・クリスマス!!」
威勢のよい声とともに、ドアが大きく開いた。
「クミコ!?」
「茅野さん?」
中には、仲良くとんがり帽子をかぶった双子の藤川さんと茅野さんが並んでいた。
「ウチの前に雪だるまがあったけぇ、絶対ココに来るじゃろと思って。待っとったんよ〜」
茅野さんはそう言ってキシキシ笑った。ジュンが眉をひそめる。
「それにしても、派手な登場じゃね、ジュン?」
「ちょっと転んだダケだっ」
むすっとしたままの受け答えを聞いた茅野さんは、目を三日月のように細めた。
「誰も『転んだ』なんて言うとらんもん」
「!」
ジュンは、口をパクパクさせて反論できないでいる。
うーん。茅野さんが一枚上手だ。
敵には回したくないタイプだな……。
一触即発の雰囲気を察した藤川さんが、さっとメニューを差し出した。


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