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かつて純子かく語りき
【学園物 官能小説】

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かつてタキタかく語りき3-1

いつもとは違う張り詰めた空気に、ふと目が覚めた。カーテンをそっと開くと、白い綿毛のような雪が、ふわふわと空を舞っては地に降りていくのが見える。昨夜の雨は、雪へと変わったようだ。
「雪……か」
それにしても寒い。
横で、すいよすいよと寝息を立てている白いほっぺたに、冷えた指先を押し付ける。

五秒後。

「……むぎっ!」
露骨に嫌そうな顔をして、そっぽを向いてしまった。「ふむ」
興が乗ってきた僕は、今度はふっくらした頬に細〜い息を吹きかける。
「……ぬゥ」
眉間に皺を寄せて、いかにも煩わしそうだ。そして、冷えたそこに触れる程度のキスをする。
一瞬間があったが、つむっている瞳がさらに細くなり、にんまりと笑みを見せた。
「や〜らしぃ顔」
何度かそれを繰り返すと、ジュンはやっと重たい瞼をこじ開けるようにして起きた。
「雪ですよ」
「……ユ、キ?」
彼女の動き出したばかりの脳ミソは、漢字変換がうまくいかなかったらしく、しばらく黙ったままだった。
「だ、……だばだばる〜?」
「!」
やっとこさ口を開いたかと思ったら、それは歌を唄う方じゃないかっ!
違うと訂正しようとしたが、むにゃむにゃしながらも懸命に「トルコ行進曲」を唄おうとするジュンを見ていると、なんだかムキに訂正するのも大人気なく思えてくる。だから、合わせて下のパートを唄ってやった。
ワンフレーズが終わったところで、彼女の頭もすっきりしてきたようだった。
「オハヨ……ぅございまする」
ベッドの上で、二人して膝をつき合わせる。正月でも無いのになと思いながら、豊かな黒髪に手を差し込んで、ジュンの肩を抱き寄せた。
「ほら。雪」
小さく切り取られたフレームから見えるまっさらな外の景色に、彼女は目を細めた。
「……白い、なあ」
朝の清らかな光が、彼女と僕を照らす。
僕には、あなたの方が。
なあんて言ったら、僕の口が溶けそうだから止しとこう。
「お散歩。行きましょうか?」
頭を一撫ですると、ジュンはごろごろ鳴いた。
「ぬっくィ格好してからイコう!」
言うやいなや、ぴょんと飛び起き顔を洗いに駆け出していく。洗面所のところで派手な音を立てながら、ジュンが叫んだ。
「さぶっ!タキタ、湯ゥ出すぞ?」
「はいはい」
僕はやっと布団から足を出したところで、冷やりとした床に一歩踏み出すのすら躊躇してしまっていた。さっきまで寝ぼけ眼でぼんやりしていたのに、まるで別人だ。寝起きはすこぶる悪いが、起きたらはやいんだよね。この人は。
一つしかない洗面所を独占されているので、僕は先に服を着替えることにした。
「んん……」
軽く伸びをする。袖口から入り込む冷気が冬らしさを演出してくれる。
さて、寒いからな。どうしようか。
きっと、ジュンは『私はゼンっゼン寒くないぞ!』とかなんとか言って、信じられないくらい軽装で行くにちがいない。
となると、僕は少々厚着をして出掛けなればならないのだ。きっと、しばらくしたら『タキタ……』って、瞳をウルウルさせながら、寒さを訴えてくるにちがいないからだ。
自身ともう一人分にまで考えを巡らせている自分に気がつき、僕はまた苦笑した。
「随分、ヤられてますねぇ。僕は」
後はコートを着込むだけと言う頃に、ジュンが戻ってきた。


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