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ばあちゃん
【ノンフィクション その他小説】

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ばあちゃん2-1

病院までの長い道のりを経て、私達三人はばあちゃん達の待つ病院にたどり着いた。
白かったであろう壁は古びて茶色く色付き、天にそびえるとまではいかないものの、そこそこの高さを誇るそれは何とも異様なオーラを放ち私達を待ち構えていた。
ばあちゃんの病室は地上四階。
エレベーターに乗り込み、滑らかに目的地へと運ばれる途中、今まで何も喋らなかった兄が、
「ばあちゃん、元気…、だったよな…」
と一言漏らした。
この時私と兄はこう思っていたに違いない。
ばあちゃんは元気だ。
病室に行けば、いつものようにお茶をすすりながら笑顔で迎えてくれる筈だ、と。
現実は違った。
四人部屋の右奥のベッドに横たわるばあちゃんは、顔色も悪くピクリとも動くことなく、本当に死んでいるかのように眠っていた。
瞬きを忘れて目を見開く。
目の前で眠る人がばあちゃんだとは信じたくなかった。
「ばあちゃん、今帰ったよ…」
兄がばあちゃんの耳元まで近付き、そっと囁く。
ばあちゃんはその声に反応したかのように少しだけ目を開けたが、焦点が合うことはなくそのまままた瞼を下ろした。

…ッ…

兄が泣き始めた。
そのせいで、我慢していた私の目からも涙が溢れた。

この時のばあちゃんを見た誰もが思っただろう。
もうばあちゃんは長くないと。
もうすぐ死んでしまうのだと。


ばあちゃんの病気は直腸癌だった。
すぐにでも手術をして悪い箇所を取り除きたいところだったが、ばあちゃんには五・六時間の手術に耐えるほどの体力は無く、人工肛門を取り付ける手術をして体力が戻るまで待つ、という手を使う他なかった。
ばあちゃんの脇腹辺りに袋が付いた。
そこに排泄物が溜まる仕組みになっている。
その手術をしてから、ばあちゃんは前のように動くことは出来ないものの、前のように喋ることは出来るようになった。
元気も出てきたように見える。
その要因はわかっている。
姉が帰って来たから。
ばあちゃんが倒れた次の日の夜、姉が会社を辞めて帰って来た。
ばあちゃんを見た姉は、涙さえ流れなかったものの、唇を震わせてその姿を眺めていた。
やはりばあちゃんも姉も、互いのことが大好きなんだ、そう感じた。

姉が家に帰って来たことで、入院していたばあちゃんが家に帰りたいと言うようになった。
医師との検討の結果、ばあちゃんは一時帰宅を許され、大好きな姉のいる我が家に帰ってくることになった。
この時の本当に嬉しそうなばあちゃんの顔は、たぶん一生忘れないだろう。

それから、母と姉の介護生活が始まった。

満足に歩くことも出来なくなってしまったばあちゃんの為に、廊下には手すりが付けられ、段差はスロープになった。
ご飯を食べさせたり、脇腹の袋に溜った排泄物を取り出したりと、母と姉の仕事は尽きることなく、何も出来ない私はなんて無力なんだろう、そう思わずにはいられなかった。


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