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ばあちゃん
【ノンフィクション その他小説】

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ばあちゃん1-1

ばあちゃんは、よく笑うお茶の好きな人だった。
姉とお茶を飲みながら、世間話をして笑っている姿を頻繁に見掛けた。
姉もばあちゃんっこだったから、二人は一緒にいることが多かった。
しかし、その姉が高校卒業後に東京に就職。家を出て上京することになった。
姉が上京する日。
駅まで父の車で行く為、車に荷物をつめる姉と父。
つめ終わり父は運転席、姉は助手席のドアに手をかけた。
「…じゃあ…行くね」
姉が一度振り返り、私達にそう言って車に乗り込んだ。
車からエンジン音が鳴り響き、ゆっくりと姉を乗せて動き出す。
瞬間。
柵にもたれかかって、ばあちゃんは泣いていた。
じいちゃんが死んだときも涙を見せなかったばあちゃんが泣いていた。
立っていられないくらい鳴咽する程泣いていた。
今も瞼の裏にしっかりと焼き付いている。
今考えれば、ばあちゃんはこの頃からもうすでにおかしかったのかもしれない。

これは、ばあちゃんと私達家族のお話。



それから数日。
家の中でちょっとした異変が起こり始めた。
色々な物が紛失するようになった。
最初に無くなったのがBSのリモコン。何処を探しても見当たらずに、頭を抱えた。
結局、保温されているポットの中から発見されたのだが。
その犯人がばあちゃんだと判明したのは、大好きなお茶の中に醤油を入れているのを見たときだった。
「ばあちゃん?醤油入れて飲むの?」
「…あら、やぁだ…入れ直さなきゃの…」
何かがおかしくなったのだ、と感じた。


姉がいなくなり、その生活にも慣れ始めた頃。

私の家はトイレが二つある。居間に近いトイレと、付け足しという形で建てた私とばあちゃんの部屋に近いトイレとの二つ。
私はいつものように用を足そうとそのトイレのうち、私とばあちゃんの部屋に近い方のトイレに入った。
便器の蓋を開けておもむろに中を見た。
排泄物が流されていない。
このトイレを利用するのは主に私とばあちゃん。
ばあちゃんのだ、そう思った。
足がいつの間にかガクガクと震えた。
足だけじゃない。
全身から震えが止まらない。
普通の排泄物なら笑って流し忘れたのか、と思えるのに。
色が付いている。
明らかに、赤い色が。
痔とかそういう類の出血でないということはすぐにわかった。
水は赤くなく、排泄物だけが赤く染まっていたから。
私は酷く困惑した。
息が荒くなって冷や汗が流れた。

━隠さなければ。

私は何も言えずにそれを流した。

どうしてこの時の私はこう思ってしまったのだろう。
どうして父や母にこの事を伝えなかったのだろう。


後悔はすぐにやって来た。


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