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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷-6

「うわぁーん!!夏音ぇーッ!」
私は教室に入るなり、静かに読書をしていた夏音にすがる思いで泣き付いた。
「ど、どうしたのよ柚姫!?」
グスっと鼻水をすすりながらさっきの出来事を夏音に話すと、黙って聞いていた夏音が下を向きながら肩を震わせ、ついにはお腹を抱えて笑い出した。挙句に目に涙まで浮かべちゃって。
「何で笑うのぉ!?」
私はむっとしてぶくぅと頬を膨らませた。
「ひッははッ…ゴメッ…だって、柚姫ってばメイドだと思われてるわけねッあははッ!」
「なになに!何か面白いことでもあった!?」
そう元気に声を掛けてきたのは私の隣の席の神谷秀斗【かみや ひでと】だった。彼も私や夏音と一緒で中等部からの友達。中高とサッカー部のヒデは健康的な小麦肌で人懐っこい笑顔が犬みたいな男の子。
「あらヒデ、ぷはッ…おはよぉ…あははははッ!」
「聞いてよぉ夏音ってばひどいんだよ!?」
まだ懲りずに柄にもなく大笑いしている夏音にうんざりしながら、私はヒデに成り行きを話し始めた。
「何そいつ!何様だよって感じだよな!」
「でしょー!?でね、この前だって…」
どうやらツボに入ってしまったらしい夏音はもう放って、嫌な顔一つせず真剣に私の話しを聞いてくれているヒデに積もりに積もった不満を、マシンガンの如くひたすら話していると、ホームルームが始まり仕方なく途中で口を閉じた。また後でねと片目をつぶって小声でこっそりそう言うヒデに、なんていい人なんだと胸がジーンと熱くなる。それに比べて夏音ときたら、私の前の席で必死に笑いを堪えて小刻みに震えていて。私は窓の外を見上げながら、深いため息をついた。

「ご、ごめんって柚姫。あ、ほら飛行機雲!」
ホームルームが終わり、始業式のために体育館へ移動する頃には、ようやく笑いがおさまった夏音が、じとりと睨む私に慌てて窓の外へと視線を向けさせた。
「あ…」
でもね、運悪く中庭を歩いて体育館へと向かうクラスの中に奴を見つけてしまったの。優磨は目立つからすぐに気付いてしまったわけで。もうクラスに溶け込んだみたいで、友達とはしゃぐ優磨をどんよりとした気持ちで遠巻きに眺めていると、ヒデも私の後ろから覗き込んだ。
「なぁ柚姫、もしかして噂の弟ってあの背がでかい奴?」
私は黙ってこくりと頷いた。
「よく分かるね!?」
夏音が驚いたように言う。
「…見たことねぇしな」
すると、こちらの視線に気が付いたのか、パッと優磨が上を向き、私と目が合うと一瞬にこりと微笑んだけれど、すぐにあからさまに不機嫌そうな顔をしてそっぽを向いてしまった。
「何あれ…」
優磨の露骨な態度にカチンときたのだけれど。
「おーい、始業式始まっちゃうぞー」
担任の先生に呼ばれ、私達も急いで教室を出て。何だか悶々とする気持ちのまま、体育館に向かう途中、うんうんと難しい顔をして唸るヒデに私はあまり気を留めず…。


始業式ではいつものことだけれど校長先生の長い話しを聞いて、諸連絡も終わり、教室へクラスごとにズラズラと連なって戻る。体育館から出る時に出席番号が近いヒデが私の隣にやって来て、私の気を紛らわせようと夏休み中の出来事を面白おかしく話してくれて。ようやく私にも笑顔が戻ってきたわけで。のんきに笑っていた私は、優磨とヒデが体育館を出る間バチバチと火花を散らして睨み合っていた、なんて気付くわけもなく。優磨が唇をきつく噛み締めてこちらを悔しそうに見ていたなんて到底予想だにしていなかったのだった…。


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