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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷-5

「新しい学校とかワクワクするー!」
混雑する駅のホームで興奮気味にそんなことを言う優磨を、私は横目でジロリと睨んだ。
「なぁ、何怒ってんだよ」
その視線に気付いたのか、優磨が眉をひそめて私の顔を覗き込んできたのを無視し、ちょうどよく到着した電車にそそくさと乗り込んだ。優磨のことでも気を揉んでいるっていうのに、ラッシュアワーで、すし詰め状態の満員電車が私をより一層憂鬱にさせる。背の低い私はいつも混み合っている車内で押し潰されてしまう。息苦しさに顔を歪めていると、ふっと軽くなって。不思議に思い上を見上げるとすぐ近くに優磨の顔があって。びっくりして周囲を見やると、優磨が両手を扉についてスッポリと私を腕の中に囲ってくれていて。私はオドオドしながら優磨の顔を見上げると、優磨はにこりと微笑んだ。扉が開くたびに優磨は私を抱き寄せて、私が潰されないように気を使ってくれて。細いようにみえて意外に太い腕や、首筋からほのかに香る香水、電車が揺れるたびに触れる厚い胸板に私はいちいちドキッとして。赤く染まり上がる頬に気付かれないようにずっと下を俯いていた。


下車する駅に着いて、私は誰よりも早くホームへ降り立つと、優磨の腕の中からようやく解放されてホッと息をついた。優磨の鼓動が聞こえるくらいあまりにも近くて、目が回る思いだったから。
「なぁ柚…」
いきなり腕を後ろから引かれてびくつく。
「な、何!?」
「お前毎朝あんなぎゅうぎゅうの電車に一人で乗ってたのか?」
「え?あぁうん…」
「ち、痴漢とか…あったりしたのか?」
「まぁ…」
心配そうに眉を下げて問い掛ける優磨に曖昧な返事をよこすと、みるみるうちに優磨の目が鋭くなって、
「明日から毎日一緒に行くからな」
と低く唸るように言った。
「へ、平気だよ?柚、今までだって…」
「俺が嫌なの!」
「は、はい…」
優磨の鬼のような形相につい頷いてしまって。もう痴漢にあって泣きそうな思いをしなくて済むのは有り難いのだけれど。あんなに密着して何十分もいるなんて、パパ以外の男の人に免疫がない私には刺激が強過ぎると思いつつも、優磨の目尻が赤く染まっているのを見て、本当に心配して怒ってくれている優磨の優しさに複雑な気持ちでいっぱいだった。


駅から学校までは歩いて5分もかからない距離。優磨は自分がこれから毎日通う学校だというのに事前の下見もしていなかったらしく、私の側をついて歩いている。チラホラと同じ学校の制服姿の生徒達も増えてきて、見慣れない景色に優磨はあちらこちら目を向けている。
「柚ってさぁ、モテてるでしょ」
「ッ!?」
唐突な優磨の問いに私は声もなく立ちすくむ。
「さっきから周りの男が柚ばっか見てる…」
優磨は明らかに嫌そうにむくれた声で言う。
「な、何言ってんの。そんなことあるわけないでしょ?柚じゃなくて見られてるのは優磨だよ」
苦笑いをしつつ周りを見渡す。ほらね、女の子はみーんな優磨をちらちらと見ては頬を赤く染めちゃって。横目で優磨をそっと盗み見て、この容姿じゃ仕方ないだろうな、と私は納得して一人うんうんと頷いた。
「だって…柚は俺のだけの柚だから…」
悩ましげな表情でそんなことを言い出した優磨に、かぁっと顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「な、何言って…」
「他の奴に柚を取られたら俺のわがままは誰が聞くの?」
意地悪な笑みを浮かべてペロリと舌を出した優磨に、目眩がして片手で顔を覆った。な、なんて傍若無人な奴なんだろう…。わなわなと怒りに震えている私をよそに優磨は足早に校門をくぐり抜け。
「柚、早くしろよ。初日が肝心なんだかんな」
私は目を丸くして呆気に取られてしまったわけで。


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