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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第20話・戦、終わりて…》-3

「まあまあ…」
「疾風も勝てたのは小鳥遊のお陰だと思ってんのか?」

剣呑な視線を疾風へと送る。

「まあ確かに、勝負を決めたのは楓ですけど…
それはその前のみんなの活躍があったからこそだと思いますよ。
例えば、スウェーデンリレーで先輩が一位でゴールテープを切ってなかったら、幾ら楓が一位でも負けてましたから。
だから、俺はみんなの勝利だったと思います」
「つまり、勝てたのはアタシのお陰でもあると?」
「はい。在り来たりな言葉ですけどね」
「じゃあ…疾風はアタシも頑張ったと思う?」
「一位でゴールした人に頑張らなかった人なんているんですか?」

疾風の微笑みを見て、千代子は胸の奥が幸せでじんわりと浸り始めるのを感じた。

「は、疾風〜♪」

嬉しそうに叫ぶと千代子は疾風の頭を自らの胸へと抱き寄せた。

「やっぱ、アタシのことを判ってくれるのは疾風だけだよぉ〜♪」

ギュウギュウと力を込める。恋人同士の抱擁というよりは、兄弟が戯れてチョークスリーパーをかけている状態に近い。

「ちょっ…せ、先輩…苦しいですよ…」

これが、朧のような豊かな身体をしている者なら疾風は真っ赤になって必死でもがいていただろう。
だが!哀しいかな、千代子の身体には凹凸が無いのである!
誘惑ボディには程遠いのである!

「うるせぇ───!!アタシはまだ成長期なんだよ!これからなんだよ!」

………人間、夢は大きい方がいいのである。叶うか、叶わないかは別として…

「い、今に見てろ!その内凄いことになるんだからな!月路の野郎なんて、目じゃないんだからな!なあ!」
「…はい」
「ほら、見ろ♪やっぱ、疾風はいい奴だ♪」

千代子は気付かなかった。疾風が決して目を合わせようとはしなかったことを。

◆◇◆◇◆◇◆◇

打ち上げは順調に進んでいった。
疾風もマイクを押しつけられ、渋々ながら一曲疲労した。
歌声は可もなく、不可もなくという極めて普通でつまらないものであった。

「ふぅ…」

疾風は一息吐いて座った。
とりあえず、一曲は歌ったので出番は終了だろう。
テーブルの上のグラスに手を伸ばす。
だが、グラスの中身は先程飲み干してしまったことを思い出した。
疾風はグラスを持ち、部屋を出た。
この店はフリードリンク、セルフサービス制なので、飲み物は部屋の外に設置されている機械から自分で注がねばならない。
氷をグラスに入れ、コーラのボタンを押す。
ガガガ…と音がしてコーラがグラスへと注がれる。
その時、背後でカランという澄んだ音がした。


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