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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ12-2

それからは、彼女の病室に通い、いろんな話をしていた。
「どうして怪我したの?」
『……野球』
「野球してるんだ」
『……まあ』
「楽しい?」
『……まあ』
まあばっかりだね、と悦乃は笑った。
『早く治して試合に』
「そしたら応援に行くよ」
『………』
「今、照れた?」
『は?』
「照れたでしょ!」
『なんだお前』
「あはは」
『………はは』
「あら、瞬くん、来てたの」
病室に悦乃の母が入ってきた。もうすでに何度か顔をあわせている。
『……こんにちは』
「こんにちは。いつもこの子の話相手になってくれてありがとうね」
『………いえ』
小さく頭を下げる。
「これ二人で食べてね」
「わぁー!シュークリーム!」
悦乃はピョンとベッドから飛び降りシュークリームを受け取る。
「瞬くん!食べよ!」
『………おう』
悦乃の母は、またあとで来る、と言って出ていった。
二人で隣り合わせにベッドに座り、シュークリームを食べる。
少しして、瞬は悦乃の顔を見る。
美味そうにシュークリームを頬張る顔はとても可愛い。
『………クリーム鼻についてる』
「へ?」
『うそ。ほら、俺のも食えよ。食いかけだけど』
「え……いいの?」
悦乃は目をまん丸にさせて俺を見る。
『好きなんだろ?』
「………好き」
悦乃のその言葉にドキッとしたような気がする。
『……ほら』
「ありがとう」
『………だから、早く治せよ』
「………うん!」





『………間に合わなかったな』
瞬はギブスのとれた腕をぐるぐる回しながら病院の廊下を歩いていた。
階段を上がり、屋上の扉を開ける。
『……この景色も、きっと今日で最後だな』
まだ太陽は上のほうにあるのが残念だ。
『………悦乃』
気付けば入り口には悦乃が立っていた。
「…………」
『よう』
「……今日で検査も最後なんだってね」
『……ああ』
なんだか気まずい。
「……じゃあ、きっと瞬くんと会えるのは今日が最後かな」
『………』
「………」
二人とも無言になる。
「瞬くん」
『………ん?』
「あのね、その…」
『………』
「私のことや、出来事を忘れないで」
『……』
「またいつか、どこかで会えたときに笑いあえるように」
『…………わかった』
「忘れない」
『忘れない』
二人は小さな声で言い、握手をした。


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