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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ12-1

『……はぁ』
瞬はギブスをした左腕をさすりながら屋上で夕日を見つめていた。
予選大会準決勝、クロスプレーで左肘を骨折してしまった。
とてもじゃないが決勝には出れないだろう。これが最後の大会だというのに。
「どうしたの?」
『………』
ゆっくりと振り返ると、そこにはパジャマを着た女の子が立っていた。
「骨折したの?」
『…………』
答えなかった。
「………ここからの夕日、綺麗ですよね」
『………』
なぜか彼女は話しをやめない。
『………入院』
「?」
『……してんの?』
「え、あ、はい…」
彼女は顔を赤くしている。
『………そ』
「……あ、私…っ!」

ドサッ

『………!』
「っは…はぁっ…はぁっ…」
『大丈夫か!?』
駆け寄ると彼女は発作を起こし、うずくまっている。
とっさに彼女を担ぎ上げ、屋上を飛び出す。
階段を駆け下り、ナースステーションに飛び込む。
『あの!この子!』




数日後、検診のついでに再び屋上へ訪れる。
『……あ』
あの子がいた。じっと景色を見つめている。
『………よくなったのか?』
「!」
彼女はバッと振り返る。
『…………』
「ずっと待ってたんだから」
『…………は?』
「また屋上に来るかと思って毎日毎日!」
なぜか彼女は凄んでくる。
『…………バカじゃねーの』
「そんなこと言わないでよ!私……」
『………』
「なんでもない」
『………』
めんどくさいな、こいつ。
「………」
その後は沈黙が続いた。
しばらくして、俺は無言で屋上から立ち去った。



翌日も午前から検診があった。
どうやら完治するまで一ヶ月近くかかるらしい。
決勝には間に合わない。
『………あのとき、もっと長打になってれば』
突っ込まず余裕でホームを踏んでいたのに。
ぶつぶつ言いながら、今日も屋上に来てみる。
「あ、今日は早いね」
『………』
こいつ、一日中いるのか?
「……ねぇ」
『…………』
「ねぇったら」
『……………』
「昨日はありがとう」
『………もう、大丈夫なのか?』
「うん!」
彼女はニコニコ笑った。俺が返事をしたのがそんなにうれしかったのか。
「私、明石悦乃」
『………常葉瞬』
この時から、俺は彼女としっかり向き合うようになった。
彼女は体が弱く、検査入院していることも、昨日のように時々、発作が起こることもこのとき聞いた。


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