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記憶のきみ
【青春 恋愛小説】

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記憶のきみ11-2

『………』
この病院には昔にも通院したことがある。
それは……たしか小学六年の夏だったか。
なんとなく記憶の片隅にある病院の廊下や壁。
こっちは…そうだ、この階段を上れば屋上だ。
階段を上がり、扉に手をかける。
「………瞬くん」
『!』
即座に振り返る。
「……みっけ」
『……悦乃」
悦乃はとたとたと小走りで階段を駆け上がってくる。
「……ふぅ、あ、瞬くんが事故にあってこの病院に運ばれたって聞いて」
『……事故なんて大げさなもんじゃねーよ』
「骨折してるんだもん、大げさじゃないよ」
悦乃は悲しそうな顔をする。
『………どうした?』
「……私が電話したときでしょ?」
『……違うよ』
「あの時、大きな音がしてすぐ切れちゃったから」
『……誤魔化しようがないな』
「……ごめん」
『絶対に謝ると思った。お前は頑固だから手短に話して終わるからな。あれは俺の前方不注意。はい終了』
瞬は苦笑いして言った。
「じゃあ終了ね」
悦乃は笑った。
『おう』
「……屋上になにしに行くの?」
悦乃は扉を見る。
『……記憶を』
なぜかその先の表現がわからなかった。
「……そう」
なぜか悦乃は理解した様子だ。特に気にしないでいた。
二人して屋上に出る。夕日が綺麗だ。
『……俺、小学生の頃ここによく来てたんだ。そう、ちょうど夕日が見える時間に』
「………ってる」
『ん?』
「……なんにも」
悦乃は笑う。なんだか先ほどから様子がおかしい。
『……思い出した。俺、小学生の頃、野球の試合で腕の骨、折ったんだ』
「……」
『それでここによく来てんだな。野球やってたときのことなんてだいぶ忘れたからなーって、なんで俺こんなしゃべってんだ?』
「……あはは、瞬くん、初めて会ったときに比べたらすごくしゃべるようになったね」
『……ああ、定期拾ったときか』
「あのときはすごくクールな感じだったのに、今は全然そんな感じしないね」
『……ああ』
「……じゃあ瞬くんに、もうひとつ思い出してほしいな」
『……もうひとつ?』
「……私たちが初めて会ったのは、定期を拾ってくれたときじゃなくて、ここ……なんだよ」
悦乃は目を閉じる。ほのかに顔が赤い。
『………それって』
「私は……瞬くんが好きです」
『……お前…悦乃?おい!』
悦乃はふらっと前のめりに倒れ込む。
『くっ………』
右腕一本で悦乃を支える。
衝撃を受け、ズキンと重い痛みが腕に走る。
『………!』


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