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『しま模様と紙ひこーき』
【青春 恋愛小説】

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『しま模様と紙ひこーき』-2

別に期待しているわけではなかった。ただ気になっただけ。でも私のような子供にはそれで十分で、それ以外の理由なんてないんだろうと思う。
だから、紙ヒコーキを飛ばすのにもきっと何気なく、なんとなく面白いから教室の窓から何回も飛ばしているんだと思った。
と、階段を上がる最中そんなことを思案していたため、教室に着くのは一瞬のように感じた。
私は、たどり着いた目的の教室に入る前に廊下を見渡す。やはりというか廊下は静けさが佇んでいる。そんな中一人立ち尽くす私は彼らからしたら夜中に侵入した泥棒かルパンか…。
もう一度ここであっているか確かめる。…うん、間違いないみたい。
さっき、校庭で振り返ったときに見た光景。それは、教室から飛び出す紙ヒコーキだった。
ただ私が見たものはそれだけではなく、私の歩いていた後ろ。校庭には四、五機もの紙ヒコーキが地面に横たわっていて、二機のヒコーキは空を優雅に舞っていた。
綺麗だな、と一瞬見とれた私がいたのを思い出し、まだ胸が疼いている事に気付いた。
だけどそれも一変、迂闊だったと少し悔しくもなった。今思えば確かに私が拾った紙ヒコーキが、誰の手も借りずに目の前に現れるはずがなかった。
「(風の仕業でもああも上手く飛ばないし)」
それに少なくとも、離陸前には風の力でも無理に等しい。だったら、このヒコーキは誰が−−と思っ時にはもう私の足は好奇心に支配されていたのを覚えている。
そうして、今は例の飛行場もとい教室の前だ。
深呼吸を一つして教室の中へ足を踏み出した。
女の子がいた。
窓際の後ろから三番目の席。差し込む夕日に照らされ、窓の外に、広がる、見慣れたちっぽけな風景を覗いていた。私はそんな赤く染まる横顔を酷く寂しく感じ、泣いてるのかな、と思ったがそれは気のせいだった。
女の子が私の気配に気付いたのかふいに振り返った。
その際視線が見事にぶつかってしまい、私は少したじろぐ。急いで怪しくありません!と証明する為に「帰らないの?」と初対面で馴れ馴れしいと思ったりしたが、テンパっていたため開口一番そんな事を聞いた私に、女の子は、
「…帰りたくないから」と呟いた。
「え?」
一言で言うと、異質だった。
言葉では上手く言えないけど、この教室だけがいつもの私が知る教室ではないような気がした。ここだけが学校とは違う所へ切り離された感じだった。
「委員の方ですか?」
「え?あ、ち、違うから気にしないでくつろいじゃって!」
女の子そっちのけで考え事をしていた私は年上のような落ち着いた声色にビックリして、手を胸の前で必要以上にブンブンと振ってしまう。ああ、くつろげって、私の家でもないのに…これじゃあホントに怪しい人物だ。
そんな自分ツッコミを彼女も同じに思ったのか、
「委員の方が聞いたら怒りますよ」と、また目を外に戻し言う。
「………」
ああ、なんとなくわかった気がした。ここが他の教室とは違う理由。
ここには喧騒がなかった。昼間のような年相応のバカ騒ぎのかけらが。けど、そんなのはこんな時間帯だから当たり前だけど、ここはそれ以上に寂しさが渦巻いていた。
そして、もう一つの理由。それは彼女が座っている机にたくさんあった。
彼女の机の上には私が見た、しま模様の紙ヒコーキが数機。
やはり、クランドで見た紙ヒコーキの大群はここから飛び出ていて、生産もされていたらしかった。そしてその発進待ちのヒコーキの横にはノートがあった。たぶんあのノートから作っているんだろう。
「あの……」
「あ、ごめん。な、なにかな?」
あ、やばい。また考え事をしてたみたいだ。彼女の目が、何しに来たんだって訴えているような気が。
「紙ヒコーキ。飛ばしますか?」
「え?」と、今日何度目かの間抜けな声。なんか情けないな。でも仕方がないと思う。だって、この子はズバリ私の目的を当てたからだ。しかもその顔には確信のようなものが見えた。
そして、やっぱりどこか寂しさも。
「どうぞ、お入りください」
我が家のように凛とした声で招く。
予想外な展開だ。その為私はポカンと立ち尽くしていたんだろう、彼女は言ったがこのまま従ってもいいのだろうか…まさか、オレオレ詐欺の新種入レ入レ詐欺かもしれない…。
だけど、そんな顔をされたら帰れるものも帰れなくなってしまう。それは、初対面ではおかしいといったまでの縋るような顔。
それでも私は始め、なんで紙ヒコーキなんかを飛ばしていたんだろうという興味しかなかった。きっと、私が大人だったらそんなわけありな顔を見てなにかを悟るんだと思う。
けど、私は、この子も子供だから。


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