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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-94

「よく来てくれた。待ってたぜ」
「あ、はい……」
 桜子が伸ばしたその手を、雄太はしっかり掴まえる。
(そんなに、あたしのことを待っていてくれたんだ)
 その力強い握手に、桜子は胸が熱くなった。
「よう」
 雄太は次いで、大和の前にも手を差し出す。まさか自分にもそれが伸びてくるとは思わなかったので、かすかに間を作ってから、慌てたように大和は握手を返した。
「入れ替え戦の時も来てくれてたよな。ありがとよ」
「あ、いえ……草薙大和です」
 既に既知同士という雰囲気はあるが、まだ姓名は交換していない。相手の名前は知っていても、それを本人から訊いた訳でもなく、そして自分は名乗っていない大和である。
「屋久杉雄太だ。桜子から、いろいろ訊いてるかも知れねぇが……ウチの野球部の、キャプテンをしてる。よろしくな」
「私は、本間品子。はじめまして、草薙君」
 桜子から聞いていた、野球に詳しいという女性。入れ替え戦のときはユニフォーム姿を見ていたので活発な印象を受けていたが、今の彼女はとても理知的で落ち着いた雰囲気がある。桜子や結花よりも、どちらかというと葵に似た趣を持っている女性だ。
「俺は、岡崎 衛」
 そんなやりとりを見ていた岡崎も、話の輪に加わってきた。
「………」
 大和はこの岡崎のことを知っている。大和が高校1年のときに活躍した甲子園で対戦し、打ち込まれた記憶がそうだ。
 それがこうやって、同じ大学で顔をあわせることになるのだから、人の縁というものはかくも不思議なものであると、大和は強く感じている。
「よろしく」
 一方、岡崎はまるで初対面のように接してきた。さすがに、彼は自分の顔を覚えていないのかもしれない。大和自身は打たれた記憶が鮮明だったことから岡崎の印象が強く残っていたが、だからといって相手もそうだとは限らないだろう。
「草薙君は、野球の経験あるの?」
 品子が興味津々とばかりに訊いてきた。
「彼は、経験者だよ」
 すると、それに応えようとしたのは、本人ではなく桜子であった。
「それも、高校のとき……」

 つい…

「?」
 桜子の口から、自分の過去が話されるより先に大和がその袖を掴んで注意を引き寄せていた。途中で言葉を止められる形になり、桜子は怪訝な表情を大和によせる。
「高校のとき、確かに野球はしていました。でも……」
 曖昧な顔つきで、話を続けていいものか判断に苦しんでいる桜子を継ぐようにして、大和は言葉を連ねた。
「肘を壊してしまったので、しばらく遠ざかっています」
 そして、右肘の裏側にある傷跡を見せる。
「「!?」」
「………」
 絶句したのは雄太と品子だ。一方で、岡崎は冷静にその傷跡を凝視している。
「ポジションは?」
「投手でした」
 その岡崎の問いに、大和は答える。ふむ、と熟考するような仕種を見せた岡崎ではあったが、不意にその表情をわずかに緩めると、
「経験者、なんだよな」
 そう言った。
「一応は、そうなります」
 岡崎の穏やかな視線には、何かの“意思”が込められているようにも思う。その瞬間、大和は、“この人は、自分のことを知っている”と察した。初対面のような態度は、どうやらフェイクであったらしい。
 しかし、それを問い質してこない辺りに、岡崎の慎重な性格が窺えた。その時と、今の自分と名字が異なっていることは、当然彼も気づいているだろうから、その辺りのことを慮っているとするならば、細やかな心遣いは好感を抱かせる。
「まぁ、立ち話もなんだ。入れ、入れ」
 雄太に促されるようにして、大和と桜子は部室に入った。今度は頭をぶつけないように桜子はひさしのところに気をつけながら、入り口を通る。180センチに達していない大和は、普通に通過しても平気であった。


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