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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-92

 こんこん…

「あ、はい!」
 そんなおり、部室のドアがノックされた。すべりの悪い、スライド式のドアが開かれた入り口には、白髪の目立つ初老の男が立っていた。
「やあやあ」
「苫渕先生」
 柔和な笑みに、高貴な立居振舞。史学部長を務め、この軟式野球部の顧問兼監督となっている苫渕である。
 雄太が軟式野球部を立ち上げようとした際、運動部の活動はほとんどレクリエーションの範疇を出ないことからそのバックアップに消極的だった大学の中で、“文武両道は学問の真髄”という理念のもと、雄太たちの良き理解者となり、軟式野球部の設立に大きく尽力したのがこの教授だ。今は亡き彼の息子が、かつて野球をしていたという過去も手伝い、まるで我が子の面倒を見るように、雄太たちを援けてきた。先に触れたが、この部室はそんな苫渕の陰助のひとつである。
 もっとも彼自身は、野球のことに関しては完全なる素人である。加えて、“史学部長”という、大学では学長に次ぐ高いポストに身を置き、多忙を極める人物だ。普段の活動でも、顔を出すことは稀である。
 それでも、職務のスケジュールを調整し、試合のあるときは必ずベンチに入ってくれていた。選手以外の、いわゆる“保護者”がチームにいなければ、試合をすることが出来ないからだ。その辺りはしっかりと顧問の役目を果たしてくれている。
 雄太は、この苫渕には足を向けて寝られないと、常日頃、感謝と尊敬を抱いている。正直な話、苫渕がいなければこの野球部は間違いなく存在していない。
「おや、屋久杉君。何処かに討ち入りですか?」
 苫渕は、雄太の格好を見るなりそういった。無理もあるまい。
「あ、いや、そのですね……」
 さすがの雄太も、照れたように取り繕っていた。
「ははは、気合が入っていますね」
 そんな雄太を、まるで我が子を見るような温かい眼差しで見つめ、相好を崩す苫渕。高徳な長者の趣を感じさせる、まさに“好々爺”な人物である。
 ふいに、そんな好々爺の表情が陰った。
「その気合に水を差すようで申し訳ないのですが、来月からしばらく日本を離れることになりました」
「え!?」
「資料研究も兼ねて、姉妹校となっているモンゴルのアトバルト・ドルゴスレン大学で、1年間教鞭を振るうことになったのです」
 それでも、彼が頼りの野球部には大きな問題だ。顧問不在では、試合を戦うことが出来ない。
 憂いが、三人の顔に浮き上がった。特に雄太の顔色は、深刻なほど青くなっていた。
「ですが、心配はいりませんよ」
「?」
 一方で、陰のあった苫渕の表情はいつもどおりの温和なものに戻っている。
「今年から客員として双葉に来てくださる先生の中に、野球にとても詳しい方がおられたので、その人に話をしていたのです。幸いに、快い返事も頂戴していますから」
 さすが、そのあたりの対処が早い。雄太たちは、安堵の息を三人同時に吐き出した。
「確か、隼リーグは女性の方でも監督をしても構わないのでしたね?」
「え、ええ……問題は、ないです」
 なにしろ、その辺りの垣根が一切存在しないリーグ戦だ。その大学に所属しているという事実さえあれば、女性だろうと留学生だろうと、社会人学生であろうと誰でも試合に参加できる。
「その先生、女の人なんですか?」
 品子が反応した。“野球に詳しい女性”は、周囲では桜子以外に知らない彼女だから、すぐに興味を持っていた。
「そうです。長見エレナさんと仰いまして……日本にこられてかなり長いですし、国籍も日本となっていますが、生まれはオーストラリアの方です」
「へ、へぇ……外国の女の人かぁ……」
「流暢な日本語をお喋りになりますし、とても、綺麗で礼儀正しい方でね。それに、社交的な人でもありました」
“既に結婚していると聞かされなければ、すぐに口説いていたでしょうね”と付け加える苫渕。つれあいと死別して久しい彼は、実はなかなかにフランクな一面を持っていた。“「学」とは「遊」であり、「旅」である”という理念も持っており、若い頃には数々の武勇伝を残したと伝え聞いている。…余談である。


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