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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-91

「よっしゃ! 一年の計は、入学式にありだ!」
「だからといって、陣羽織に鉢巻なのはなぜだ?」
 ここは軟式野球部が使用している部室代わりの古小屋である。双葉大学が設立当時から残っている研究棟の一部だったのだが、使用されなくなって久しいものを、史学部長でもある顧問兼監督の苫渕教授が軟式野球部のために宛がってくれたものだ。
「背中に“球”って……」
「こいつも、自前だぜ」
「………」
 手にしている幟には、“求む! 野球人!!”と達筆で書かれている。聞くところによると、陣羽織の背文字も自分で縫いつけたというのだから、いろいろに多芸な雄太の才能をいやがおうにも知らされた岡崎であった。
「一人でも多く、野球が好きなやつを集めなきゃ。今のままじゃ、試合が出来ないからな」
 なにしろ、3年になった時点で部を引退した者が2名出てしまった。元々、9人しかいなかった野球部はこれで7人となり、人数割れを起こした計算になる。
「特にキャッチャーの補強は、急務だぜ」
 痛いのは、捕手の留守が抜けてしまったことだ。考古学部に所属する彼は、博物館学実習のため長期の留学を夏に控えている。それに専念したいという彼の申し出を断ることなどできないし、強いて翻意させる権利も雄太たちにはなかった。
「桜子ちゃんが入ってくれるから、あとひとり何とかしないとね」
 部室には品子もいる。部員名簿を眺めながら、これをいかに埋めるべきか算段をめぐらせているようだ。
 互いの念願は叶い、蓬莱桜子は双葉大学に合格したから、まず間違いなくひとりの部員は確保できている。あと一人を獲得すれば、とにかく試合に臨むことは可能だ。
「ただ野球をするだけなら誰だって構わないが……俺たちには、1部昇格という目標があることも、忘れるな」
 雄太が人材確保に躍起になるあまり、その本願を忘れないよう釘を指す岡崎。もちろん、とばかりに雄太は強く頷くと、自分の“右腕”と頼りにしている岡崎の肩を強く叩いた。
「今年がラストチャンスだ。昇格できなきゃ、俺たちは2部でしか戦えねえからな。それに、桜子はいちおう経験者だ。怪力だから、期待できるぜ」
「確か、バレーボールのホープだった子だよな」
 知識だけなら幅広くスポーツに通暁している岡崎だ。全国的に名を知られている桜子のことは当然知っている。
「脚を怪我したと聞いたが。それも、重傷だと……」
「完治……したかどうかはしらねぇが、龍兄が持ってるチームの試合に何度か参加したこともあるって言ってたからな。野球をする分には、問題ないんだろう」
「そうか」
 ともかく実物を見てみなければなんとも言えない。しかし、競技が違うとはいえ世界で戦ったことのある桜子の運動能力がこの部に加わることは、必ず大きなプラスになだろうと岡崎は考えている。
「楽しみだな」
 だから、真にそう思った。
「桜子のボーイフレンドも、この大学に来たんだけどよ……野球してくんねえかな?」
 雄太は大和との面識がない。入れ替え戦のとき桜子の隣にいたのを確認し、“龍兄”と慕う蓬莱亭の家長・龍介の話の中で、その存在をちらりと聞いただけだ。故に、大和がまさか“甲子園の恋人”という異名を取ったほど有名な人物だとは、この時点では全く知らなかった。
「とにかく、あとひとり何とかしないとな。桜子のボーイフレンドが、経験者だったら言うことナシなんだがよ……チーム力の底上げも、しなきゃいけねえからな」
 三人とも3年ではあるが、来季を1部リーグで戦うにはどうしても今季の昇格を果たさなければならない。
 昨季は、2部リーグでは圧倒的な強さを見せ、“無敵”だったが、入れ替え戦では享和大学に1−7と完敗し、1部の厚い壁を実感させられた。
 現実がいろいろと見えてくると、さすがに雄太も課題の多さに唸ってしまう。もともと、雄太と岡崎、それとあと二人野球の経験者チームの中にいるが、層の薄さは否めないところである。
「私も……もう少し、頑張って上手くならないとね」
「品子は良くやってるよ」
「そ、そう?」
「屋久杉の言う通りだ。本間は、ほとんどウチの監督みたいなもんだからな」
「お、岡崎君」
 品子は運動を得意としないため、その技量に関しては大学から野球を始めた浦や吉川と変わらない。しかし、チームの中では最も野球に関して熟知しており、またデータの収集能力も長けたこの品子は、双葉大軟式野球部の“頭脳”といって差し支えなかった。
「まずは、とにかくは、人だ人」
「そうね」
「うむ」
 顔をつき合わせて、難しい顔をしている三人。陣羽織に鉢巻をしている雄太の姿だから、まるで死地に赴かんとする陣営の最良の作戦を、必死になって練りだしている最中の軍議にも見えてしまう。


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