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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-5

“剥離骨折”と診断された肘の故障は、何度か手術を繰り返すことで完治した。しかし思った以上に時間がかかってしまい、結局、今年の高校野球は選手として予選にすら参加することは出来ず、大黒柱を失っていた久世高校は早い段階で敗れ、あれだけ騒がれていた“陸奥大和”の高校野球はいとも簡単に終わりを迎えた。
(どうしようかな……)
 野球に夢中になっていたときは考えることもなかったこれからの進路。3年生である彼は、卒業後の指針をこれから決めていかなければならない。
(進学しか、ないんだけど……)
 幸いに、今はもう“父親”ではなくなった人物から充分すぎるほどの慰謝料が支払われており、草薙家の家計は大和が大学に進んでもなにひとつ問題のない経済状態である。また母親も、再婚するまでは有能な秘書として活躍していた過去が役に立ち、離婚後すぐに復職できていたから、収入源も得ていた。
(何処に行こう)
 しかし肝心の大和には、目指す道が見えない。
(無難なところで、双葉かな)
 好きな科目で大学を選ぶとするならば、史学・考古学で高名な公立の“双葉大学”だろうか。投げやりな気もするが、無難な選択にも思える。公立だから、母親への経済的負担も軽く済むだろう。
「はぁ……」
 だが、確固たる信念のないその選択に、大和はどうしても熱するものを感じられず、何度となくため息をこぼすばかりだった。
「………」
 ふと、目線を空から下のほうへと移した。あまり高いといえないフェンスの縁を掴み、頭を屋上の階下へと向けてみる。
 病院の中庭は、頗る穏やかな光景が広がっていた。
(帰ろうか)
 思い悩み、それに疲れた大和は俯きながらもう一度だけ息を吐く。
 そのままフェンスから離れようとした、その瞬間だった。
「ダメェェェェェ!!!」
「えっ?」
 絶叫と思しき掛け声が鼓膜に響く。首を廻してその出所を確認しようとした大和だったが、その背中に強烈な圧力が覆い被さってきた。
「う、うわっ」
「ダメッ! 死んじゃ、ダメッ!」
(死!?)
 思いがけない強力(ごうりき)で羽交い絞めにされ、頭の中の整理も出来ないままフェンスから引き剥がされていく。
「あ、あなたにはちゃんと生まれてきた意味があるの! そんな大事な意味を、自分で壊すようなことしちゃダメッ!」
「ど、どういうこと……う、うわぁっ」
 ざざざざ、と抗うことも出来ずにフェンスから遠ざけられる。声の響きや、背中に押し付けられている柔らかいものを考えれば、自分を羽交い絞めにしている存在は女性に間違いない。それにしては、とてつもない怪力だ。
 屋上の中心部まで引っ張られたかと思うと、極められていた肩が解放され、安堵した途端に大和は体を無理やり反転させられた。
「バカッ!」

 バチッ……

「!」
 頬に弾ける痛み。勢い余って首が廻り、下手をすると頚椎を痛めてしまいそうなほど強烈な頬うちだった。
「こ、このっ」
 さすがに大和の頭に血が昇る。わけもわからないまま羽交い絞めにされたばかりか、頬まで打たれたのだ。
「ちょ……?」
 口からでかかった激しい言葉はしかし、目の前で涙を浮かべながら息を荒げている少女の姿を確認するや、跡形もなく引っ込んでしまった。
「グスッ、えぐっ……し、死んじゃダメェ……」
「あ、あの……」
 しゃくりあげるような嗚咽にむせぶ少女。なんだかそれが本当に自分の責任に思えてきた大和は、自分が悪いわけでもないのだが、必死に彼女をあやすことで懸命にならざるをえなかった。


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