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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-39

「どうした? 殊勲者の二人が、やけに静かじゃないか」
「あ、原田さん」
 やはり酒に弱い面のある原田は、乾杯時のビールを一杯頂戴したものの、後はウーロン茶で場を凌いでいた。それでも赤ら顔になっているのだから、“弱さ”がはっきりしている。
「せっかくのところ、お邪魔してはまずいかな?」
 彼にしては珍しい“軽口”が出るというのも、酒の効果かもしれない。
「そ、そ、そんなことないです!」
 相変わらず、大和との関係を穿って見られている。桜子は慌てたように、席を原田に勧めると、火照った頬を沈めるために何杯も烏龍茶を呷った。
「草薙大和君」
「はい?」
 そんな桜子と原田を楽しそうに見ていた大和だったが、原田の目的が自分にあることを察知すると、視線を彼に向ける。
「今、思い出したんだ。君、甲子園で投げていただろう?」
「えっ……」
 原田の言葉に、桜子が息を飲む。
「名字が違っていたから、気づかなかった。1年生で、控えの背番号をつけて活躍した“甲子園の恋人”……君のことだろう?」
「……昔の、話です」
 今の早い世相から見れば、二年前は既に“昔”である。
「あまり、触れてはいけない話題だったかな」
 大和の表情に翳りを見た原田は、バツの悪そうな顔をする。2年生のときの甲子園で、最初の一球目で肘を壊したことは有名なことであるし、それに、名字が変わっているということは、いろいろな事情も重なったのだろう。
 それに踏み込んでしまってよかったものか。少し軽率だったかもしれないと、原田は反省の色を見せていた。
「いえ、大丈夫です。すいません」
 気にしていないといえば、それは嘘になるかもしれないが、大和にとっては過去の話だ。
「印象的だったからね。投げる姿も格好よかったが、打つほうも凄かったから」
「はぁ……」
「あの摺り足のバッティングフォーム……“見たことあるな”って思ったんだ。それで、思い出した」
「………」
 確かに彼の言う通り、投手として脚光を浴びていた大和は、その打撃成績も瞠目にあたいする数字を残していた。1年生にも関わらず、準優勝した大会で残した彼の成績は、打率が5割を越え、本塁打も2本という見事なものだった。立場上、9番の位置に居たが、その数字だけを見ればクリーンアップと比べても遜色はない。
 実際の話、3年生が引退し、新チームを編成したとき、大和はエースナンバーと併せて4番打者の座も託された。まさに彼は、久世高校の大黒柱だったのである。
 もっとも、肘を壊してからは、投球だけでなく打撃にも大きな影響が出てしまい、補欠に座ることさえできなくなったのだが…。
(………)
 大和は、スイングの際に全く違和感のなかった右肘に思いを馳せる。
 肘を壊した当初は、バットを振るだけでも激痛が走ったことを思えば、打つ方に関しては問題がなくなっていた。これなら、試合にも出ることが出来るし、充分な実力を発揮できるはずだ。
(あ、と……)
 ふと、自分が既に野球部を引退していたことを思い出す。自分の高校野球は、終わりを迎えて久しいことを…。
「草薙君?」
 そういう寂しさが、瞳の色に現れたらしい。心配そうな顔つきの桜子が視界に入ったので、大和は笑みを創った。


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