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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-34

「踏み込んだら、急に顔に来ちゃって。びっくりして、避けられなかった」
 何度も顔を擦り、血を拭う。ドラフターズにとって、今日の試合は“流血”ばかりだ。
「わざと、じゃないの?」
「違うと思うよ。だって、当たった瞬間、あの人“しまった”って顔してたもの」
 上を向いて、しばらく待って、顔を戻す桜子。顔に当てられたというのに、それに対して不満を何も口にせず、翳りを見せないあまりにも純真なその瞳に、京子は少し自分が意地の悪い女に思えて、それが恥ずかしくなった。
「あー……」
 顔を起した瞬間、またしても赤い筋が溢れだす。
「ああ、もう。ちょっと、待ってなさい」
 見ていられなくなった京子が桜子をベンチに座らせると、水で湿らせたガーゼで、血で汚れたところを綺麗にし、救急箱から綿棒を取り出すと、それを桜子の鼻に詰めてしばらく時を過ごした。
「きょ、京子さん、鼻、くすぐったい……は、は……」
「この状況で、くしゃみは絶対やめてね」
 んぐ、と空気を飲み込む桜子。確かに今くしゃみをすれば、目の前にいる京子を惨事に引き込んでしまう。鼻腔のくすぐったさに絶えながら、時間と戦う桜子であった。
 ややあって、真っ赤に染まった綿棒を京子は引き抜いた。
「あ、止まった」
「念のため、ガーゼを詰めておくのよ」
「うん」
 桜子は言われたとおりの処置をすると、打席に戻る。
「いや、あの、デッドボールだから……」
 打席に入って、バットを気合充分に構える桜子に、主審は困ったような表情でそう告げた。桜子は“?”を顔に貼り付け、しばらく考え込んだ様子であったが、すぐに事態を飲み込んで、照れ笑いを浮かべると一塁へ駆け出した。
「次の打者、誰です!」
 吹きだすのを堪えながらそれを見送り、主審はドラフターズのベンチに声をかける。
「おっと」
 弾かれたように、原田に代ってその位置に入っていた龍介が打席に向かおうとしたところ、何かを思いついたように立ち止まった。そのままくるりと、大和の方を向く。
「草薙君、出るか?」
「えっ」
 そういえば、龍介にそう頼もうとして、話がうやむやになっていたことを思い出す。
「試合も終盤やし、実のところ、ワイは打つほうもからきしやねん」
 もう、自分の代りに大和を打席に出すことを決めているのか、龍介はヘルメットを外し、彼に差し出す。
「い、いいんですか?」
「“切り札”を出すとしたら、今しかないやろ」
 1試合7イニング制を布いている大会で、この試合は6回裏を迎えている。最終回は野球に関して素人ばかりが並ぶ下位打線に廻ることを思えば、塁上に桜子がいる今は、最後の好機とも言えた。
「ありがとうございます」
 期するところもあり、大和は力強く頷く。バットとヘルメットをそれぞれ龍介から借り受けて、大和は打席に向かった。
「あのコ、どれぐらいできるのかしら……」
 大和の実力を、京子たちは全く知らない。甲子園を沸かせた好投手“陸奥大和”の存在を知っていても、それはあくまで“甲子園”とワンセットでなければ連想されないことだ。従って、甲子園と関係のないこの場所では、その連想も起きない。
 そんなベンチの視線を知らず、大和は打席に立つ。


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